本号では、令和6年4月1日から適用される、「建設業・運送業に対する時間外労働の上限規制」についてご案内いたします。 決められた納期を守ることが大前提である事業体も適切な準備を進められるよう、これまで5年間、働き方改革関連法の適用が猶予されていました。しかし、その猶予期間もあと1年あまりで終了となります。
2.「上限規制」の具体的な限度とは?
3.ICT によるスケジュール管理を基本に
1.労働時間を規制する意義
建設業・運送業が長年の懸案として抱えている、「長時間労働」と「人材不足」。これらの課題がなかなか緩和されないのが実情であるにも関わらず、働き方改革関連法によって時間外労働の上限規制を行うのには、2つの理由があります。
*健康確保措置のため
「脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」より
(平成13年12月12日付け基発第1063号厚生労働省労働基準局長通達)
「1週間当たり40時間を超える労働時間が月45時間を超えて長くなるほど、業務と脳・心 臓疾患の発症との関連性が徐々に強まるとされている」
「1週間当たり40時間を超える労働時間が月100時間または2〜6か月平均で80時間を超える場合には、業務と脳・心臓疾患の発症との関連性が強いとされている」
などのように、医学的な所見にもとづいて注意喚起が行われています。
*労働参加率の向上のため
長時間労働は健康維持を阻害するばかりでなく、仕事と家庭生活の両立を困難にし、少子化の原因、女性のキャリア形成を阻む原因、男性の家庭参加を阻む原因にもなっていると考えられています。この仕事では当然のことだから……と思考停止に陥るのではなく、長時間労働を是正することによって、性別や年齢を問わず幅広い人材が仕事に就きやすくなります。
週休二日制、短時間勤務など、多様で柔軟な働き方を受け入れる仕組みづくりが人材不足の緩和につながると期待できます。
国土交通省「建設業における働き方改革」平成29年3月
https://www.mlit.go.jp/common/001189945.pdf
厚生労働省「自動車運転者の労働時間等に係る実態調査結果(概要)」令和3年10月
https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/000883703.pdf
2.「上限規制」の具体的な限度とは?
改正労働基準法により、令和2年4月から中小企業にも適用された時間外労働上限は、原則で月45時間・年360時間です。臨時的な特別の事情がなければ、これを超えることはできません。 特別条項付きの労使協定を結ぶ場合でも、以下の限度が適用されます。
・時間外労働は、年720時間以内
・時間外労働と休日労働の合計は、月100時間未満
・2〜6か月平均は、1か月当たり80時間以内
・時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6か月
厚生労働省「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」令和3年3月
https://www.mhlw.go.jp/content/000463185.pdf
*建設業における上限規制
建設業については、災害の復旧・復興の事業を除き、前述の上限規制がすべて適用されます。改正労働基準法の適用に向けた環境整備のため、令和2年10月に施行された「改正建設業法」において、適正な工期を設定することが定められ、著しく短い工期での請負契約の締結が禁止されました。 ただし、災害の復旧・復興の事業では、時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満、2〜6か月平均80時間以内とする規制は適用されません。
国土交通省「工期に関する基準」
https://www.mlit.go.jp/report/press/totikensangyo13_hh_000711.html
一般社団法人日本建設業連合会「時間外労働削減ガイドライン」
https://www.nikkenren.com/2days/pdf/guidelines_2022.pdf
*運送業(自動車運転の業務)における上限規制
運送業については、特別条項付きの労使協定を結ぶ場合、時間外労働の上限が年960時間となります。
ただし、時間外労働と休日労働の合計には、月100時間未満、2〜6か月平均80時間以内、時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6か月まで、とする規制が適用されません。
同時に「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)」が改正されていますので、概要は以下のリーフレットで確認できますが、詳細についてはいずれパンフレットのかたちで公表されることとなります。
厚生労働省「トラック運転者の改善基準告示が改正されます」(リーフレット)令和4年12月
https://www.mhlw.go.jp/content/001035028.pdf
厚生労働省「STOP! 長時間の荷待ち」(リーフレット)令和4年12月
https://www.mhlw.go.jp/content/001035190.pdf
運送業は緑ナンバーのトラック、タクシー、バスなどを運転し、運賃を受け取って人または荷物を運ぶ事業を指しますが、運送業以外の事業所においても、自動車運転を主な業務とする従業員については、同様の時間外労働の上限規制が適用されます。 例えば、製造業で製品や部品・資材を工場から倉庫に運ぶ、卸売業で取引先に出荷・納品する、従業員が営業のために運転で移動する、などの場合には白ナンバーのトラックやワゴン車、役員の乗用車などが使われることがありますが、これらのケースも同様の扱いです。
3.ICT によるスケジュール管理を基本に
企業や事業部門の単位で労働時間の見直しを図る場合には、長時間労働を是正するという経営方針のもとで、ICT(情報通信技術)を活用した現場レベルのスケジュール管理や、情報共有の複線化を行うのが基本であると考えられます。
ICT(情報通信技術)で注目されているのが、相対の電話やメールに代わるインカム(音声)、チャット(文字)による連絡方法、あるいはWEBカメラの設置などです。責任者、担当者のみならず、職場全体で現場状況を見守ることで、スケジュール管理への意識が高まり、優先順位の調整・業務組立の効率化・業務量の平準化などのアイデアが生まれ易くなり、現場支援が可能になります。
運送業においては、デジタル式運行記録計「デジタコ」の装備が、車輌総重量7トン以上(最大積載量4トン以上)の事業用貨物自動車に義務付けられました。さらに、荷主都合による荷待ち時間の記録、運転者の負担軽減と規制効果などを検証し、運行管理の高度化が期待されています。
加えてAI(人工知能)の本格的な活用が始まれば、需要予測の自動化、配送ルートの最適化、危険運転の予知などが実現し労働環境の改善が進むことになるでしょう。
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