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雇用の出入口での賃金設定について

雇用の出入口での賃金設定について

事業や組織の将来を見据え、一般募集やスカウト採用による中途採用、次世代人材のつなぎとめ(リテンション)あるいは実務の支え手が定年を迎えた後の再雇用など、基幹人材の賃金設定をどう考えるべきか、経営にとって節目での判断が必要になります。

応募者あるいは在籍者(従業員)にとって、賃金および報酬のあり方は関心を持たざるを得ない要素です。

自社の賃金について、同業他社あるいは世間一般の賃金水準と比べた見極め、遜色ない賃金を支払うことが人材獲得・確保の基本的な前提になります。

しかしながら、どのような仕事をするのかによって対価を決めるジョブ型の賃金はまだ十分に浸透せず、企業の規模やその他の事情によって賃金のバラつきが発生している状況にあります。

そのため、自社の賃金水準を見極めることは容易ではなく、「恐らくこのくらいならば他社並みだろう」という主観的な推測によって判断せざるを得ない実情があると思います。

本号では、中小企業における雇用の「入口(中途採用)」と「出口(定年再雇用)」の賃金について、なるべく合理的な設定を行うためのヒントをご紹介させていただきます。

なお、御社が人事制度を既に構築されている場合や、成長分野の事業に積極的な人材登用を行っている場合には、ご参考までにお読みいただけましたら幸いです。

1.中途採用の賃金の見極め
2.「ズバリ!実在賃金」の活用
3.賃金傾向値表
4.定年再雇用の賃金

1.中途採用の賃金の見極め

社外から経験・実績を持つ人材を中途採用するときに、世間相場に見合った賃金を提示しなければ採用に結びつかないことになります。

しかし、一方では社内で同等の経験・実績を持つ在籍従業員の賃金との均衡(バランス)に配慮しなければなりません。

往々にして、賃金水準は社内事情の積み重ねで成り立っています。

中途採用の目的が既存組織の増員や退職者の補充であれば、在籍従業員こそは仕事の進め方に習熟し社内外での人脈を保っている等の優位性があるため、中途採用者の初任給(所定内賃金)は一定の幅で割り引くことが一般的ではないかと考えられます。

それゆえに、一旦は割り引いた初任給で中途採用者を受け入れたうえで、入社後の働きぶりが評価出来る場合に限り、社内の賃金水準に即して同等の経験・実績を持つ在籍従業員の賃金に近付けることになります。

他方で、中途採用者の世間相場に見合った賃金が在籍従業員の賃金水準を超える場合は、割り引いた賃金では採用に結びつかず、中途採用者の初任給に調整給を加えて受け入れざるを得ません。

ただし、調整給は期間限定で支払うことが原則ですので、入社後の働きぶりが評価出来る場合に基本給に吸収するか、あるいは入社後の働きぶりが評価出来ない場合には段階的に縮小させることができます。

なお、以上の検討手順は、成長分野の事業に積極的な人材登用については適用できず、在籍従業員の賃金との均衡(バランス)を度外視しても、必要な人材の採用を優先しなければならないこともあります。

2.「ズバリ!実在賃金」の活用

前号でご紹介したように、RIMONOでは北見式賃金研究所(名古屋市)との業務提携を通じて、中小企業の賃金を自己診断できる「ズバリ!実在賃金」のプロット図作成サービス(有償)を提供しています。

首都圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)の中小企業(従業員数300人未満)から収集した、最新の賃金データのうえに、御社の賃金を重ねて表示することで、一目瞭然のプロット図を作成いたします。ご要望に応じて、都道府県別、業種別のプロット図仕様も作成できます。

当該のプロット図では、職層別・年齢別・勤続年数別の賃金について、その中央値(世間相場の賃金)を読み取ることができるので、中途採用者の初任給を設定する際の支援ツールとしてご活用いただけます。

3.賃金傾向値表とは?

一般企業の賃金は、定期昇給やベースアップとは別に、一定の範囲で昇給・昇格が行われることによって、年齢や勤続年数に応じて概ね右肩上がりの賃金曲線を描くことが想像できます。

賃金傾向値表は、厚生労働省の賃金構造基本統計調査(賃金センサス)にもとづいて、業種別・規模別に、従業員の年齢と勤続年数の増加に伴って所定内賃金がどのように上昇しているかを示すものです。

従来から中途採用の割合が多く、年齢・勤続年数の分布がバラつくため、自社の賃金構造が見えづらい場合にも、賃金傾向値表と対比することで同業他社あるいは世間相場に比べて賃金が高いのか、低いのか、ある程度の目安を得ることできます。

なお、賃金傾向値表は賃金の金額そのものではなく、年齢・勤続年数の平均賃金水準について、18歳・勤続0年(高卒)、22歳・勤続0年(大卒)を100とした指数の数表となっています。

4.定年再雇用の賃金

既知のとおり、2021年 4 月に施行された「改正高年齢者雇用安定法」では、従業員の希望に応じた年齢までの雇用確保措置について、企業の努力義務で65歳→70歳までに延長されました。(60歳未満の定年は改正前から禁止されています。)

この改正によって、定年延長、定年廃止、定年再雇用、業務委託、社会貢献活動の支援など雇用確保措置の選択肢が広がっています。

厚生労働省「高年齢者雇用安定法改正の概要」
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000694689.pdf

若手の人材が不足するために、高年齢の在籍従業員に活躍してもらわざるを得ない状況において、定年延長、定年廃止ではなく定年再雇用が主流となっているのが実態であると言えます。

定年再雇用の前提として、定年となる従業員に引続き十分な貢献が期待できる場合であっても、その先にある世代交代を見越しつつ、定年再雇用者を組み込む人件費の確保や組織編成、業務運営のあり方を検討しなければならないはずです。

定年再雇用を希望する従業員個々が抱えるライフステージの違いを踏まえて、職務・職責(例えば、ラインの役職を外れる)や労働時間(パートタイムとする)などを調整し、加齢による体力・気力・考え方の変化に対応できるよう、1年単位の有期雇用契約を結ぶことをおすすめします。

しかし、定年再雇用では、会社は従業員が定年に達するまで維持してきた処遇の枠組みから外してコストを削減することがきっかけとなっています。

再雇用制度独自の格付けによる賃金水準を決定することが必要ですが、成績を上げても昇給や賞与支給はせず、定年前の60%〜70%程度の水準に調整することが一般的です。

再雇用後も実質的に同じ職務・職責を継続する場合は、「同一労働同一賃金」の問題や定年再雇用者のモチベーションが低下していくという懸念も伴います。

なお、60歳到達時の賃金が定年前の賃金の75%未満となる場合に、雇用保険料を原資として支給される「高年齢者雇用継続給付金」は、2025年4月1日から新たに60歳となる労働者に対して、従来の15%→10%に縮小されます。

この点について、「高年齢者雇用継続給付金」を組み合わせて再雇用賃金を設定するときに、留意する必要があります。

RIMONOでは定年再雇用の賃金シミュレーションを個別に作成しております(有償)。ご興味があればお問い合わせください。

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