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キャリアアップ助成金について

キャリアアップ助成金について

平成25(2013)年度の雇用関係助成金制度の改正により、新設された「キャリアアップ助成金」。この助成金は雇用保険を財源とし、有期雇用の契約社員、パートタイマー・アルバイト、派遣労働者などを対象に、当面の就職先での雇用安定・処遇改善・教育訓練等を支援するために設けられたものです。

一般的に言って、助成金とは、国や自治体が当面の政策を推進する目的で民間企業に支給する、返済義務のない資金です。「一定の要件を満たす場合に漏れなく支給される」という点で、民間企業の公募を通じて関連予算の枠内で支給する補助金とは異なります。

「キャリアアップ助成金」は、事業者の規模を問わず人気が高く、年間45,000件程度の利用申請が集まります(キャリアアップ計画の認定件数)。
そのため、行政は雇用安定から処遇改善へと制度の重点を調整しつつ、不正受給のリスクが混在する現実問題に対応し、支給要件の精緻化と支給審査の厳格化を進めています。

解雇を厳しく制限する労働法のもと、事業者が直下の正社員採用ではなく有期雇用の段階を踏むことで、事業成長と人員確保の数的バランスを維持できると見通しが立った場合、あるいは基幹職層の能力や適性を持つ人材を見極められた場合などに、正社員への転換を図る——本来的には、このような流れを支援する仕組みであったはずです。

本号では、厚生労働省の最新資料を読み解きながら、「キャリアアップ助成金」の利用を検討されるにあたって特に人気の高い「正社員化コース」の事例を中心に、事業者に求められているポイントなどをご案内させていただきます。

1.処遇改善、教育訓練等の支援に重点
2.就業規則、賃金規程の整備を厳格化
3.基本は適切な人事・労務管理

1.処遇改善、教育訓練等の支援に重点

コロナ禍をまたいだ長期的な人手不足を背景として、量的な雇用の確保が図られているのであれば、次の段階では、“有期雇用労働者の処遇改善”を図ること、“事業成長に即した人材の育成・再育成”を行うことが雇用安定に結びつくはずです。
この意味において「キャリアアップ助成金」の政策的な重点が変化していると思います。

従来では、正社員への転換後6か月間の賃金を、転換前6か月間の賃金に対して3%以上増額させていることが必要でしたが、令和4年10月1日以降は、「賞与または退職金の制度」かつ「昇給」のある正社員への転換が要件になりました。賞与の支給や昇給の実施を求めるなど、正社員転換による処遇改善の内容が引き上げられています。
転換後の賃金総額に含める諸手当などを含めて、就業規則・賃金規程によって制度化されていなければなりません。

また、「キャリアアップ助成金」の基本助成額に対して、生産性要件を満たす場合の加算措置(企業の生産性が向上することで雇用の安定化が図られる可能性があるため)がありましたが、令和5年4月1日以降は廃止となりました。代わりに「人材開発支援助成金」の併用による教育訓練の終了後に、有期雇用労働者を正社員化した場合の加算措置に置き換えられました。
これに伴って、加算額の縮小が実施されています。例えば、有期雇用を正規雇用に転換した場合の加算額は15万円から9万5千円に縮小されています。

なお、「キャリアアップ助成金」と併用する「人材開発支援助成金」の訓練は、人材育成支援コース、人への投資促進コース、事業展開等リスキリング支援コースに区分されますが、日常の職場や業務を離れて行う教育訓練(いわゆるOFF-JT)が大半であるため、中小企業においては思い切った業務調整が前提になると考えざるを得ません。

厚生労働省「人材開発支援助成金」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1.html

2.就業規則、賃金規程の整備を厳格化

「キャリアアップ助成金」の支給申請には書面審査が付されます。就業規則、賃金規程によって労働条件が制度化され、正社員転換前後の処遇改善が裏付けられていなければなりません。労働契約法に則して考えれば、就業規則の定めに対して手前勝手に低い労働条件を雇用契約書で定められないことから、見せかけの正社員転換による制度利用を防ぐという意味になります。

以下では、厚生労働省の最新資料にもとづいて、就業規則、賃金規程の定めや実務上の対応が支給要件から外れてしまいがちな点を例示させていただきます。

①就業規則、賃金規程において定められた「賞与または退職金の制度」かつ「昇給」のある正社員への転換が必要である。 

正社員転換後に、会社の業績によって賞与を支給する、会社が必要と判断すれば昇給するなど、賞与の支給や昇給の実施に関する客観的な基準が明確でない(実際に行われるかどうかが分からない)場合は支給対象外となる。

②正社員転換前後の賃金総額が3%以上増額となっていなければならず、実費補填の通勤手当、住宅手当、勤務状況によって変動する残業手当、精皆勤手当、あるいは勤務成績に応じて支給される賞与などは、増額の計算に含めることはできない。

固定残業代について、正社員転換前後で固定残業代の総額または時間相当数を減らす、あるいは固定残業代を廃止することで、賃金総額が3%以上増額となっていないときは支給対象外となる。

③転換後の雇用契約書において試用期間が設定されている場合、試用期間満了までは正社員に転換したものとは見做さない。

試用期間中は未だに正社員転換が行われていないと解釈され、転換後6か月以上という雇用継続期間に試用期間を加算しなければならないため、支給申請が可能となる時期が遅れる。

④有期雇用社員に適用される就業規則において契約期間に係る規定がない場合は、転換前の雇用期間は無期雇用労働者であったと見做される。

契約期間が不明確である場合には無期雇用社員(ただし、正社員ではない)と見做され、無期雇用社員の正社員転換は有期雇用社員の場合に比べて助成金が半額になる(57万円>28万5千円)。

⑤有期雇用社員に適用される就業規則、賃金規程により、基本給・賞与・退職金・各種手当等のいずれか一つ以上で、正社員と異なる賃金の額や計算方法が異なる制度を定めている必要がある。

名ばかりの正社員転換を支給対象外とするため、有期雇用社員に適用される就業規則、賃金規程で「個別の雇用契約書で定める」と記載されている場合にも、有期雇用社員と正社員の間の賃金の額または計算方法の違いが確認できなければならない。

厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内」(正社員化コース)
https://www.mhlw.go.jp/content/11910500/001087356.pdf

3.基本は適切な人事・労務管理

「キャリアアップ助成金」は、雇用保険制度にもとづく助成金です。正社員転換後の社員を雇用保険に加入させることはもちろん、正社員転換の日の前日から起算して6か月前の日から1年を経過する日までの間に、「当該社員以外の雇用保険被保険者を解雇等の会社都合により離職させないこと」が基本的な要件になっています。

本来的には、社会保険・労働保険に加入していること、労働時間が管理されていること、適切な賃金が支払われていること、定着につながる人材育成や職場づくりが図られていることなど、適切な人事・労務管理が整備された状況で有期雇用社員から正社員への転換が行われたときに、「キャリアアップ助成金」が支給されます。

事業の種類や規模を問わず、「キャリアアップ助成金」を利用したいがために、とにかく、なんとか、というアプローチで人事・労務管理に向き合う事業者も混在しています。そのために、制度要件の厳格化と複雑化が進んでいる状況は、裏腹の関係です。

RIMONOは、御社の人事・労務の整備について多面的にご支援させていただくとともに、「キャリアアップ助成金」の相談にもお応えいたします。

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