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最低賃金の引き上げ

最低賃金の引き上げ

今月号のテーマは、「最低賃金の引き上げ」についてです。

中央最低賃金審議会により、令和5年度の地域別・最低賃金額の引き上げ幅が、過去最高額のAランク41円、Bランク40円、Cランク39円に定められました。今後、各都道府県の審議によって実際の引き上げ額が決定され、10月以降に実施される見込みです。

このガイドライン通りに各都道府県の最低賃金引き上げが行われた場合、全国加重平均は1,002円となります。全国加重平均の上昇額は41円、引上げ率に換算して4.3%となり、現行制度が始まって以来最高の引き上げ幅になります。

◎ 西東京地域で検討されている最低賃金

最低賃金額 引き上げ額 引き上げ率
東京都 1,113円 +41円 3.82%
神奈川県 1,112円 +41円 3.83%
埼玉県 1,028円 +41円 4.15%

政府の「働き方改革実行計画」(平成29年3月28日)による、「年率3%程度を目途として、名目GDP成長率にも配慮しつつ引き上げていく。これにより全国加重平均が1000円になることを目指す」との方針に基づいていることがわかります。

厚生労働省が、最低賃金についての基本知識をまとめた特設ページを開設しています。 是非ご一読ください。

厚生労働省「賃金引き上げ特設ページ」
https://pc.saiteichingin.info/chingin/

全国加重平均が1,000円の大台に乗ったインパクトにより、中小企業を含めた全体の企業賃上げを加速させる動きが予測できます。経営としては、仕入・製造原価の上昇や物価高による買い控え等に直面しつつも、人手不足のなかでの賃金引き上げを飲み込まざるを得なくなっていくと考えられます。

本号では、最低賃金の引上げをいかに受け止めるべきか、そのためのヒントを共有させていただきます。

  1. 中小企業の賃上げ動向

  2. 「年収の壁」対策助成金

1.  中小企業の賃上げ動向

「2023年春闘(春季労使交渉)」は、生活を直撃している物価上昇への対応を踏まえて、企業側が賃金引上げに前向きであったことから早期解決・満額回答が続出しました。 今回の動きは幅広く、賃上げを持続させる世間相場の転換点となりうるのかもしれません。

大手企業の積極的な賃上げに続いて、中小・小規模企業への波及と非正規雇用の処遇改善のために、政府と経済団体が連携して人件費を反映させた価格の適正化や最低賃金の引き上げを検討・議論することになりました。

日本商工会議所・東京商工会議所が中小企業を対象に本年2月に実施した調査では、2023年度の賃上げ予定について、物価上昇への対応などで「賃上げ実施予定」「賃上げ率2%以上」とする企業が、各々6割近くに上りました。

同じ調査では、昨年10月の最低賃金引き上げによって直接的な影響を受け、「最低賃金を下回り、賃金を引き上げた」企業が、約4割あったことがわかります。やはり、最低賃金の水準で就業している非正規雇用にとって、最低賃金の引き上げが切実である点を再認識させられます。

日本商工会議所・東京商工会議所
「最低賃金および中小企業の賃金・雇用に関する調査」の集計結果について
https://www.tokyo-cci.or.jp/page.jsp?id=1033793

また、直近の東京商工リサーチによるアンケート調査によれば、「(2023年度に)賃上げを実施した企業を規模別でみると、大企業89.9%に対し、中小企業は84.2%で、5.7ポイントの差がついた。だが、前年の6.6ポイント差から縮小し、中小企業でも賃上げが進んだ」こと、人手不足に直面する中小企業のうち「業績が堅調な企業では、非正規雇用から正規雇用にシフトする」動きも伺えるとのことです。

東京商工リサーチ
2023年度「賃上げに関するアンケート」調査
https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1197905_1527.html

企業の規模を問わず、デジタル技術の活用によって業務の標準化・効率化を図り、賃上げの原資となる労働生産性を向上させる流れは止まりません。最前線の現場での労働生産性を担うパートタイム労働者こそがデジタル知識・技術を習得できるよう支援すれば、新たなスキルアップが最低賃金を上回る処遇改善に結びつく可能性も考えられます。

厚生労働省「毎月勤労統計調査」では、パートタイム労働者の時間当たり給与は1,267円(前年同月比3.2増)となっています。

厚生労働省「毎月勤労統計調査」令和5年6月分結果速報
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/r05/2306p/dl/houdou2306p.pdf

2.  「年収の壁」対策助成金

最低賃金の引き上げには、非正規雇用の適切な処遇を維持しつつ、人手不足の状況において潜在的な労働力を雇用市場へ呼び込むという目的があります。

しかしながら、共稼ぎのパートタイム労働者を中心に、賃金が一定額を超えると社会保険料が天引きされ手取りが減る「年収の壁」を意識した就業調整が、賃金水準の上昇・人手不足の緩和・社会保険の適用拡大を阻んでいるという指摘が多いことも事実です。

ご既承のとおり、社会保険の適用拡大が進められ、勤務先の被保険者数が要件を満たす場合(現行では101人以上、2024年10月から51人以上)、週の所定労働時間が20時間以上、所定内賃金が月額8万8000円(年収換算約106万円)を超えていれば社会保険の加入が義務になります。

個人単位で手取りの減少を避けたければ、「年収の壁」を超えないように勤務時間を調整する、結果として組織単位で人手不足が発生するため採用募集の時給を上げる、次の段階ではさらなる就業調整が起きるといった、悪循環が発生してしまいます。

現在検討されている「年収の壁」対策助成金(仮称)は、雇用保険料を財源にしたキャリアアップ助成金制度の一部として、今年度の最低賃金引き上げが実施される10月を目途に導入されるという報道があります。

パートタイム労働者の賃上げとともに、就業調整している勤務時間を段階的に増加させる企業の取組みを促進することで、人手不足を緩和する効果を期待しています。賃上げと勤務時間の増加を通じて「年収の壁」を突破すれば、数年後に就業調整が発生しない年収に到達するという目論見です。制度の正式発表を待ってご案内を差し上げる予定です。

ただし、会社員に扶養される配偶者が第3号被保険者として保険料を納付せず、国民年金や健康保険の給付を受けている措置に対して、強い批判もあります。そのうえ、共稼ぎのパートタイム労働者の保険料まで肩代わりすることになれば、「負担なき給付」が一段と拡大します。この問題は、いずれ社会保険制度の改正により見直されるのかもしれません。

なお、「年収の壁」は、会社員に扶養される配偶者にとって、社会保険だけではなく国の所得税あるいは企業から支給される家族手当との関係にも影響を与えるものです。年収が103万円を超えると一般的な配偶者控除(38万円)が受けられなくなる、配偶者の勤務先から家族手当の支給対象外となることを指す場合があります。

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