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年収の壁・支援強化パッケージ

年収の壁・支援強化パッケージ

RIMONO Letter 9月4日号でご案内した令和5年度最低賃金が、審議会の答申通りに発効し、全国加重平均額は1,004円(昨年度の961円に対して43円の引上げ)となりました。

西東京地域の令和5年度最低賃金
最低賃金額 発効年月日
東京 1,113円 令和5年10月1日
神奈川  1,112円 令和5年10月1日
埼玉 1,028円 令和5年10月1日

厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/minimumichiran/

最低賃金の引き上げには、非正規雇用の適切な処遇を維持しつつ、人手不足の状況において潜在的な労働力を雇用市場へ呼び込むという目的が主にあります。

しかしながら、共稼ぎのパート従業員を中心に、賃金が一定額を超えると社会保険料が天引きされて手取りが減ってしまうという「年収の壁」によって、就業調整が発生し潜在的な労働力に蓋をしているような状況が続いてきました。

厚生労働省「令和3年パートタイム・有期雇用労働者総合実態調査」(現在の就業形態を選んだ理由及び就業調整)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/170-1/2021/index.html

そのため、今般の最低賃金引上げと併せて、キャリアアップ助成金制度に「年収の壁」を突破するためのコースを設けるなどの措置が実施されることになりました。

パート従業員の賃上げとともに、勤務時間を増加させる企業の取組みを促進することで一旦「年収の壁」を突破すれば、

  • ・数年後には家計への好影響を実感できるようになる
  • ・パートタイム勤務以上のキャリアアップを目指す
  • ・将来受け取れる年金の増額を期待する
などのメリットをパート従業員が享受できるようになり、就業調整に逆戻りしない流れができるであろうとの目論見があります。

本号では、「年収の壁・支援強化パッケージ」の概要、活用などについてご紹介します。

  1. 支援強化パッケージ
  2. パッケージの活用
  3. 適切な人事労務が前提

1. 支援強化パッケージ

「106万円の壁」とは、社会保険の適用拡大が進められ、勤務先の被保険者数が要件を満たす場合、パート従業員が最低賃金の引上げに応じて勤務時間を調整することを指します。

現行では被保険者数が101人以上(2024年10月からは51人以上)、週の所定労働時間が20時間以上、所定内賃金が月額8万8000円(年収換算約106万円)*を超えていれば社会保険の加入が義務になります。

*標準報酬月額8.8万円の場合、東京都の介護保険該当者に対する厚生年金保険料、健康保険料の合計は、会社13,568円/月、本人負担13,253円/月となります。

なお、100人以下の事業所の場合は、週の所定労働時間及び月の所定労働日数が常時雇用されている従業員の4分の3以上の者であることで、社会保険の加入が義務となります。

(1)「106万円の壁」対応

年収106万円以上の社会保険加入義務による保険料負担を回避するため、パート従業員が勤務時間を調整する動きに対して、令和7年度末(2025年3月)までに会社が賃金の増額・勤務時間の延長・またはその併用によって社会保険に加入させる場合に、キャリアアップ助成金に新設された「社会保険適用時処遇改善コース」(1人あたり最大50万円)の支給を申請することができます。

キャリアアップ助成金に新設されたコースについては、個別のお問い合わせに応じて詳細をご案内させていただきます。

厚生労働省「キャリアアップ 助成金 社会保険適用時 処遇改善コース」
https://www.mhlw.go.jp/content/001159290.pdf

(2) 社会保険適用促進手当

会社が社会保険適用に伴い従業員本人負担分の保険料に相当する手当(社会保険適用促進手当)を支給する場合に、最大2年を上限として標準報酬月額・標準賞与額の算定対象としない措置が実施されます。

(3)「130万円の壁」対応

パート従業員の年収が130万円以上になると、勤務先が社会保険の適用事業所かどうかに関わらず、配偶者の扶養から外れて国民年金・国民健康保険の加入義務が発生します。

そこで、パート従業員が業務逼迫などによって勤務時間を延長する場合、一時的に年収が変動し130万円以上となっても、会社が事業主証明を提出することで被扶養者認定を迅速に行い、国民年金・国民健康保険の加入による保険料負担を回避できるようになります。

(4) 配偶者手当(家族手当)の見直し

就業調整の一因となっている家族手当(勤務先の規程によって年収103万円を超えると支給対象外となる場合が多い)について、配偶者に対する家族手当の減額(または廃止)と扶養する子に対する家族手当の増額を組み合わせる方針が打ち出されました。

来春の賃上げに向けた労使交渉において検討・議論されるよう、働きかけが行われるものと思います。

なお上記のパッケージは、配偶者の扶養に入っていれば保険料負担がなく老齢年金を受けられる「第3号被保険者制度」の見直しまでの、期間限定の措置になることが予想されます。

厚労省「年収の壁・支援強化パッケージ」
https://www.mhlw.go.jp/stf/taiou_001_00002.html

厚生労働省「年収の壁」への当面の対応策
https://www.mhlw.go.jp/content/12500000/001150703.pdf

2. パッケージの活用

実態として、家計の担い手がパート従業員の配偶者であることで、「年収の壁」を超えて手取り収入が減少してしまえば、家計に与えられる影響は少なくありません。

パート従業員のなかには、育児や介護などの事情から勤務時間を調整している人がいることは周知のとおりですが、賃上げによる「年収の壁」が立ち塞がって勤務時間を一段と短縮すれば、例えば保育園の利用が可能となる就業時間を下回ってしまうこともあります。

上記のパッケージを活用することで、現場の主力であることが多いパート従業員の賃金上昇や就業環境を整備し、人手不足に対応するための具体的な施策をいくつか例示します。

  • (1) 在籍者の基本給や諸手当を増額することで離職を防止する。
  • (2) 採用・入社時の賃金を増額し、新規または補充採用を強化する。
  • (3) 諸手当を充実することで、同一労働・同一賃金(雇用形態に関わらない公正な待遇の確保)を実現しつつ、パート従業員の職務内容を拡張し、正社員の負担を軽減する。
  • (4) 賃金上昇や就業環境によって成長意欲を引き出し、正社員転換・管理職への登用などキャリアパスを用意する。

なお、社内的に「年収の壁」を議論するときに、社会保険以外にもうひとつの「年収の壁」が持ち出されることがあるかもしれません。給与収入のみであれば、年収が100万円を超えると住民税が課税される、103万円を超えると住民税に加えて所得税が課税される、といった税制上の仕組みを指します。

また、パート従業員の妻を持つ夫について、103万円を超えると所得税の配偶者控除が適用されなくなる影響もあります。

3. 適切な人事労務が前提

雇用保険料を財源とする助成金制度を利用するためには、社会保険料の加入義務を果たすことはもちろん、パート従業員を対象としても適切な人事労務や教育訓練を整備・運用することが基本的な前提になります。

(1) 法改正に即した雇用契約、就業規則の整備
(2) 労働者名簿、賃金台帳、出勤簿の整備
(3) 時間外労働・休日労働の把握と割増賃金の支払い
(4) 賃金制度、評価制度に紐づいた昇給・賞与
(5) 継続的な人材育成のための教育訓練

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