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働き方改革の一歩先へ

働き方改革の一歩先へ

2019年4月から「働き方改革」の関連法令が順次施行され、労働環境に様々な変化がもたらされました。

これらの法令により、長時間労働の是正を最優先としつつ、少子高齢化に伴う労働人口の減少を緩和するため多様な人材を労働市場に呼び込み、かつ労働生産性を向上させる流れが生み出されています。

他方で、こうした働き方改革が推進される以前から、常態的な長時間労働によって引き起こされる健康上の問題は広く知られていました。

長時間労働により心身に過度な負荷がかかれば、睡眠や食事などの生活習慣が乱れ、疲労が蓄積する原因となります。

場合によっては労災事故、脳や内臓の疾患、精神疾患などを引き起こす恐れもあり、最悪の場合は過労死や自死などの結果を招くことになりかねません。

厚生労働省 令和4年度「過労死等の労災補償状況」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_33879.html

労働上の身体的な負荷・精神的なストレスへの対応度には、大きな個人差があります。

相当な負荷であっても動じない場合や、一定期間の鍛錬により対応力を身につけている場合もありますが、個性の違いによっては、長時間労働そのものが耐えがたいこともあります。

長時間労働の是正のために時間単位での労働強化が求められることで、混乱してしまう場合もあるでしょう。

長時間労働の是正のみに止まらず、そうした個人差を超えた枠組みを設定し、従業員の心身の健康維持・増進を目指す「健康経営」、あるいはその発展形として“ウェルビーイング(Well-being, 心身の健康のみならず、社会性が満たされた状態)”という考え方が提唱されています。

本号では、働き方改革の一歩先にある課題への取組みとして、健康経営、PDCAを用いた取組み、ウェルビーイングについてご紹介します。

  1. 「健康経営」の定義
  2. PDCAを用いた取組み
  3. ウェルビーイング

1. 「健康経営」の定義

健康経営は、従業員の健康管理を経営的視点から捉えて、従業員の健康が会社の業績向上につながるという考え方です。

従業員の健康管理を促進することで、労働生産性が向上し、コスト・バランスを図りつつ業績拡大につながる好循環を生み出せるのではないでしょうか。

〈経済産業省による健康経営の定義〉

「健康経営とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することです。企業理念に基づき、従業員等への健康投資を行うことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながると期待されます」

健康経営は、厚生労働省ではなく経済産業省が政策推進を所管していることもあり、政策推進の視点やニュアンスが企業寄りになっています。

端的に言い換えれば、日本経済の構造的な課題は少子高齢化であり、今後とも働き手不足が続くはずであるから、現役でいる限りは健康を維持し元気に働いて欲しい、健康を維持することで医療や介護等社会保険料*の支出も抑えられるため、企業単位で健康管理の取組みを推進してほしいという政策です。

*医療費の増加は、健康保険組合等の財政悪化を招き、結果として健康保険料の上昇を通じて企業の負担が増加することになりかねません。

健康経営の取組み例

  • ● 数値目標の設定……
    労働時間、有休取得、食事・睡眠・運動のバランス、喫煙・飲酒等における健康課題の改善に向けた数値目標を設定する。
  • ● 定期健康診断の受診・再診……
    定期健康診断・特定健康診査(40歳以上)を業務時間内に受診させる。 要精密検査や特定保健指導の診断を受けた場合は、傷病休暇を付与する。
  • ● ストレスチェックの実施……
    労働者50人未満の事業場におけるストレスチェックは努力義務にとどまるが、メンタルヘルスの課題を把握するためストレスチェックを定期的に実施する。
  • ● 治療と仕事の両立支援…… 傷病休暇の付与・相談窓口の設置・職場環境の整備などにより、傷病の治療が必要な従業員に対して治療と仕事の両立を支援する。
  • ● ヘルスケア・プログラム……
    感染症予防・食生活改善・禁煙などをテーマにしたセミナー、職場単位でのウォーキング・ストレッチなどの運動、瞑想時間、有機食材を使用したランチの提供など、健康支援のプログラムを導入する。

2. PDCAを用いた取組み

健康経営に着手するときは、組織単位の生産性向上などに対して継続的に取組む手法として馴染みのある「PDCA」*で採用しつつ、社内独自のイベントや外部機関の認定制度を組み合わせて社内に浸透・定着させることが適切と考えられます。

*PDCAとは、Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)の4つのプロセスを繰り返す手法です。現状分析にもとづいて課題・目標・期間を区切った計画を立て、必要な施策を立案・実行し、計画期間ごとに客観的な達成度を検証、次期の計画や施策に反映・修正をする、といったサイクルを続けていきます。

健康経営においては、残業時間数、病気欠勤・休職者数、健康診断受診率など、自社で集めやすいデータによる現状分析を起点とします。

例えば、特定の職場で残業時間が目立って多い場合には、そこに優先して取り組むべき課題が埋もれているかもしれません。

こうした優先課題への取組みについて、そもそも経営層による判断で事業活動のあり方を変えなければ、残業時間を減らせないかもしれません。

当初から経営層が本気で取組みつつ、不断に関わってゆくことを公約・明言し、健康経営を推進する組織体制を整備することが大切です。

また健康経営は、従業員個人の健康への関心や価値観に関わるために、浸透と定着に時間がかかりがちですぐに成果が出るものではありません。

PDCAは年単位での長期的なサイクルになることが予想されます。

長期的なサイクルの節目には、本来の計画以外にも社内独自の健康促進イベントを実施することで、従業員が興味・関心を抱く契機とすることができます。

例えば、歩数計測コンテストなどで楽しみや達成感を与え、優秀者を顕彰するといった工夫も推奨できます。

取組みを加速させるために、外部機関の認定制度を利用する方法もあります。

日本経済新聞が運営する「健康経営優良法人認定制度」があることはご存知かもしれませんが、ホームページでは認定された企業の成功事例が紹介されているので、参考情報の収集に役立ちます。

ACTION! 健康経営(健康経営優良法人認定制度)
https://kenko-keiei.jp/

3. ウェルビーイング

ウェルビーイング(Well-being, 心身の健康のみならず、社会性が満たされた状態)とは、健康経営の発展形として、従業員が抱く充実感といった社会的要素に着目し、やりがいを持って生き生きと働ける職場の実現を目指す考え方です。

どちらかといえば、健康経営よりも従業員に寄り添った取組みが想定されます。

仕事だけの人生ではなく私生活や家庭も大切にしたい、というように、価値観や働き方の多様化が進んでも、心身の健康と社会性の充実を求めることは変わりません。

会社が健康管理の取組みを推進してゆくとともに、従業員個人が職場や周囲との関わり方を充実させるため、具体的に何をするか、何を変えようかと動き出すきっかけを与えることが必要です。

健康経営を推進する組織体制として専任または兼任の担当部門を設置、あるいは組織を横断するチームを立ち上げ産業医などの指導を受けたのち、現状分析の結果として長時間労働・生活習慣病・メンタルヘルスなどの領域において、取り組むべき課題が見受けられるはずです。

そうした課題解決に向けて従業員個々の共感や協力を得るためには、社内的な取組みだけでは限界があります。

さらに職場の活性化を目指したウェルビーイングの取組みを採用する場合は、外部リソースの活用が望ましいと考えられます。

受け皿となる福利厚生サービスは、従来のように仕事を離れた余暇の娯楽を割引提供するだけでなく、健康支援のプログラムとインセンティブを組み合わせて、必要十分なプランを提供する方向へ進化しています。

株式会社リロクラブ
https://www.reloclub.jp/

株式会社ベネフィット・ワン
https://corp.benefit-one.co.jp/

ご承知のことと思いますが、特定保健指導という制度が、健康診断の結果、生活習慣病の発症リスクが高いと判定された40~74歳までの被保険者および被扶養者を対象に実施されています。

保健師等の医療専門スタッフとの面談により、生活習慣の改善目標を設定し、継続して取り組んだ結果を3か月経過時に評価する仕組みです。

福利厚生サービスには、この特定保健指導のプログラムも用意されています。

トレーナーの個別相談やアプリの数値管理などによって、食事管理・運動習慣の定着・健康意識の変化をサポートし、取組みにおける挫折やマンネリ化の実態を改善するように設計されています。

他方では、健康経営あるいはウェルビーイングに取組むために、物理的な職場環境の整備も大切です。

安全で効率的な現場作業を重視した機械設備、快適な空調や照明、感染症予防など身体への負担を軽減する装置器具、チームワークを活性化するオフィスレイアウト、移動が少なく時間や場所にとらわれないテレワークの導入など、中期的な計画にもとづいて投資することになります。

RIMONOでは、長時間労働の是正について実務面で支援することはもちろん、生活習慣病やメンタルヘルスに対応する産業医・専門医、オフィスや作業スペースの環境デザインなど、様々な外部サービスをご紹介しております。

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