従業員を解雇するとき、その理由が客観的に合理性を欠き社会通念上相当であると認められない場合には、使用者側の権利濫用であるとして無効になります。
このような労働法の法理があるために、30年以上に及ぶ景気浮揚と腰折れを繰り返す中で、企業は非正規雇用を拡大しながら人件費の固定費化を回避してきました。
現在に至っては非正規雇用を前提とした企業活動がこなれている状況にあります。
パート・アルバイトや派遣社員が現場業務を回し、契約社員が専門業務を担当し、嘱託社員が固有技術や技能を支えている状態が当たり前となってきています。
厚生労働省 就業形態の多様化に関する総合実態調査(令和元年)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/keitai/19/index.html
他方で、自分のライフスタイルに合わせて自由に働きたい、独自のキャリアパスのために必要な経験を積みたい、育児・介護にあたるために柔軟な働き方をしたいなどの理由で非正規雇用を選択している人々もいます。
それにしても、労働人口の減少による人手不足・人材不足が全面的に進むと、非正規雇用を主力とした事業は不安定になっていきます。
正規雇用の門戸を開かなければ、次世代を担う働き手が確保できず、立ち行かなくなる可能性が予見されます。
本号では、御社の事業内容や組織構成に即した人材の採用取り組みとして、正社員雇用に恵まれなかった「就職氷河期世代」、専門分野での活躍が期待できる「高度外国人材」、さらに即戦力としての「離職・転職者」の再雇用(ジョブリターン制度)などについてご案内をさせていただきます。
2. 高度外国人材
3. 離職・転職者の再雇用
1. 就職氷河期世代
就職氷河期世代とは、バブル崩壊後の厳しい経済環境下で新卒時に正規雇用の機会に恵まれず、その後も不本意な就業状態が続いてキャリア形成ができていない、現在では概ね35歳以上55歳未満の世代を指します。
内閣官房就職氷河期世代支援推進室「就職氷河期世代の就業等の動向」
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/shushoku_hyogaki_shien/suishin_platform/dai5/siryou1-1.pdf
就職氷河期世代の人口は約1,700万人と推計されますが、このまま高齢化すれば、十分な年金を受け取れず生活が困窮していくのではないかと懸念されています。
そのため、厚生労働省の主導で、当該世代の積極採用や人材育成の取り組みが続けられています。
厚生労働省 就職氷河期世代活躍支援特設サイト
https://www.mhlw.go.jp/shushoku_hyogaki_shien/about/
就職氷河期世代はすでに社会経験を積んで、安定感をもった働き手となり得るステージにあります。
企業の中で人手不足に加え従業員の高年齢化が進んでいる場合などは、この世代人材を採用することにより、活性化の刺激を与え、社内外との連携を円滑化し、後進育成にも目配りする役割を発揮することが期待できるのではないでしょうか。
しかしながら、短期間の転職を繰り返していたり、その日暮らしを続けている期間があったり、異業種からの転職であったりする場合は、長期雇用を前提に確実な意欲を持つ人を見極め、職務内容に必要な知識・技能の習得あるいは資格を取得させる取り組みが望ましい側面もあります。
就職氷河期世代専門窓口を持つハローワークでは、個人単位での就職活動をきめ細かく支援するほか、希望する職種や適性に応じた職業訓練(ハロートレーニング)を実施し、正社員雇用のロールモデルを確立しようとしています。
厚生労働省「就職氷河期世代活躍支援」のご案内
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-hellowork/content/contents/001498023.pdf
2. 高度外国人材
企業活動を支える働き手は、もはや日本人だけではないと言えるでしょう。昨年の外国人労働者数は200万人を超え、外国人を雇用する事業所数は32万近くまで増加しています。
国籍別では、ベトナム、中国、フィリピンなどの割合が高いことはご承知のとおりです。
就業許可をもつ在留資格別では、従来的な制度である「技能実習生」や、2019年4月に制度化された「特定技能外国人」に加えて、日本国内または海外の大学・大学院を卒業した専門的・技術的分野(研究、技術・人文知識・国際業務、経営・管理、法律・会計業務)での在留資格を持つ外国人の増加が目立っています。
法制度上ではこうした外国人労働者を「高度外国人材」と呼びます。海外事業を展開する企業の国内拠点において、海外企業とのプロジェクトを担当する専門職、技術分野をまとめる研究者やエンジニアとして活躍していることが多いようです。
厚生労働省 外国人雇用状況の概況
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000755657.pdf
日本人に限らず人材を得たいと考える企業においては、現時点で海外事業を展開しているかどうかに関わらず、日本での就職を希望する外国人留学生に着目してみてはいかがでしょうか。
留学生は、国境を超えて新しい環境に飛込む意欲的な若者であり、学生生活を通じて日本の文化に触れながら日本語能力を培っています。
また、異文化を背景とした価値観や行動心理を持つ外国人留学生を採用することで、社内組織の活性化を促す側面も期待できます。
外国人留学生を新卒採用しようとする場合は、高度外国人材として適切な在留資格に切り替えさせたり、特別な人事制度を用意したりする必要ありません。
ただし、キャリア意識が高い点を踏まえて雇用や処遇について確実に理解させることが大切です。
初めて高度外国人材の採用を検討する場合は、外国人雇用サービスセンターの活用や留学生が在籍する大学からの情報収集をおすすめいたします。
JETRO 高度外国人材活躍推進ポータル
https://www.jetro.go.jp/hrportal/forcompanies/about.html
一般社団法人 留学生支援ネットワーク
https://ajinzai-sc.jp/
3. 離職・転職者
転勤命令を受け入れられない、自分が家業を手伝いたい、出産・育児・介護に専念したいなどの私生活の事情で離職した人や、他社へ転職した人、独立起業した人などを呼び戻すことは、従来から行われてきた採用方法です。
また、彼等との接点を通じて新規取引先を獲得し、事業拡大のきっかけが生まれることもあります。
人材の流動化が進む状況の中で、離職・退職者との関係を維持しつつ相互の条件が一致すれば復職させる取り組みは、「ジョブリターン制度」、「アルムナイ(卒業生)採用」とも呼ばれます。
離職・退職者は自社での仕事や職場についての理解があるため、再雇用によって馴染みやすいというメリットがあります。
在職時に評価の高かった社員が離職・転職するときには、良好な関係を維持することが大切です。無理やり引き止めようとしたり、裏切り者扱いをしたり、退職理由を突き詰めて聞き出そうとすることはNGです。
温かく送り出すと同時に、再雇用を受け入れる用意があること、その採用基準を伝えておきます。
その後は離職・転職者との接点を作り、連絡を絶やさないようにします。
経営・管理職層や人事総務部門がSNSでつながる、会社主催のイベントに招待して顔合わせをする、肩肘を張ることなく情報交換会を開催して会社の状況を説明するなど、様々な形でつながります。
「戻りたい」との意思表示を受けた場合は、再雇用の条件についての詳細な擦り合わせが必要です。
離職・転職者は会社をよく知るゆえに再雇用にあたっての要望や不安を抱いているはずであり、会社が求める役割や条件をあらためて説明し、双方で納得のいく再雇用をまとめなければならないと思います。
今回お伝えする内容は以上となりますが、RIMONOで御社にご支援できることがございましたら、お気軽にご相談ください。