中途採用の人材募集・採用選考にあたって、とにかく人手不足で採用を急ぎたい、入社させてしまえば何とかなるから、と社内の異論を押し切るように決定してしまい、入社後に職場になじめない、担当業務をこなすうえで実力不足であるなど、様々な理由で労使双方の期待に沿わず早期離職につながってしまう場合があります。
早期離職は採用・育成に投下したコストの損失につながるばかりでなく、入社・受入れに関与した職場のモチベーションの低下にもつながります。さらに件数が増加すれば、社外的にも離職率が高いというマイナスイメージを拡散させる原因にもなり、新たな応募を集めることが難しくなります。他方で、本人が離職せず問題社員として居直ってしまう場合であれば、直接対応に当たる周囲の社員が大きなストレスに見舞われます。
厚生労働省や民間機関による調査では、定年退職や雇用期間の満了を除く主な離職理由として「仕事の内容に興味が持てなかった」、「職場の人間関係が好ましくなかった」、「労働時間が長かった」、「給与水準に満足できなかった」などが挙げられています。
厚生労働省 令和5年雇用動向調査結果の概況 2024/8/27
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/24-2/dl/gaikyou.pdf
仮に御社でも同様の経験をお持ちの場合は、早期離職や問題社員の事例を分析したうえで採用基準の伝え方を見直す、本人の資質や適性を重視する、職場になじんで仕事をこなせるように適切なかたちで支援するなど、中途採用に即した工夫を検討実施しなければなりません。
なお、中途採用にあたっても、職業安定法による男女差別や障害者差別の禁止、同法にもとづくガイドライン(就職差別につながるおそれがある14項目)、個人情報保護法による個人情報取得の制約、労働施策総合推進法による年齢制限などについて考慮する必要がありますが、以下では一旦除いて考えています。
【お伝えする内容】
1. 採用情報の大切さ
人材不足の状況が続く中途採用では、業務や待遇などについて会社が訴求した内容と応募者が思い描いたものの間にズレがあると、次の転職へ流れやすく早期離職が発生してしまいます。どのような仕事や職場において活躍できる人材を求めているのか、どの程度の待遇条件を用意しているのか、明確な採用情報を開示することが大切です。
正門入口となるホームページをしっかりと作り込み、入社後にどのような働き方を評価するのか、会社の価値観を伝えることも欠かせません。応募者を惹きつけようと魅力的な側面ばかりを訴求するのではなく、仕事の実態が理解されるよう情報の解像度を上げ、誰もが汗をかかなければならない部分が伝わるように工夫します。
また、ハローワークやリクルート会社に採用情報を提出する場合は、社内的にも検討・議論のプロセスを踏むことが大切です。経営トップと現場が求める人材に食い違いがあるまま採用活動を行った結果、冒頭に述べたような“とにかく型”の採用決定に走らないようにしなければなりません。
最終選考の段階では、応募者が入社後に認識違いやズレを感じることがないよう、在籍社員との交流会を開催したり、短期間の就業体験を受け入れたりする方法もあります。応募者は採用面接の段階で想像できなかった組織の現実を理解することができ、いずれ合格(予定)者を受け入れる社員たちも心の準備ができます。
RIMONOでは、自社の経験を踏まえて求人情報の作成を支援させていただくほか、会社の考え方を体系化した小冊子の策定をおすすめしています。会社の考え方をあらためて言語化することで、求められる人材が明確になり、採用面接の段階で小冊子を開示すれば応募者自身が活躍する可能性を思い描くことができるのではないでしょうか。
2. 適性診断の活用
採用選考にあたって、採用担当者や経営トップの主観的な好き嫌い、思い込みなどを補正するための「適性診断」というツールがあります。応募者の基礎能力や行動特性を筆記テストによって測定し、蓄積されたデータベースでその傾向や数値を評価することで、個人の資質・適性が客観的に示されます。
例えば、基礎能力が高くても行動特性の面で規律性や協調性の数値が低い場合などには、慎重な選考が求められるはずです。在籍従業員にも同じ適性診断を受けてもらい、自社で活躍できそうな人材の傾向や数値を明確にしておくことも役立ちます。
管理職が計画性を持って業務や組織を動かすことができるか、専門職が期待する水準で仕事をこなすスキルが身についているか、一般職が協調性をもって組織に馴染むことができるかなど、各職層・職域で資質・適性を確認することをおすすめします。RIMONOでも顧問先様向けに、適性診断のサービスをご提供しています。
入社後の試用期間についても、本人の資質・適性を見極めるために活用できます。試用期間は文字通りお試し期間としての前置き理解があるため、結果として本採用拒否についても本人の納得を得やすい側面があります。ただし、仮に本人が不当解雇を争う場合、客観的・合理的であって相当な理由が根拠に必要であり、例えば社風に合わないという理由だけでは無効となりかねません。
中途採用について、適性診断の結果は合格水準であってもその実力を発揮できるかは未知数である点を想定し、試用期間を通して指導員を配置すること、上長による定期的な面談を実施することなどが薦められます。入社後の本人が職場になじんで仕事をこなせるようになるまでの適合支援を行う取組み(オンボーディング)については、次号でご案内する予定です。
3. 前職調査の実施
応募者の経歴は、採用選考にあたって本人から提出された履歴書や職務経歴書で把握することになりますが、後ろ楯となる紹介者がいないときなど、自己申告の内容が真正であるかどうかまでは調査できないと思います。住民票記載事項証明書など、公的機関が発行する身分証明書を提出させて本人性の確認にとどまるのが一般的です。
しかしながら、基幹職務を担う管理職を採用するときに、前職調査(リファレンスチェック)を実施する方法があります。採用選考にあたっては前職調査の実施について個人情報取得の同意を得ておき、最終選考の段階で応募者にヒアリング調査の協力を得られる相手先、その関係性(上長、同僚など)、連絡先などを提出してもらいます。
在籍期間・役職経験などの基本的な事項だけでなく、応募者の仕事ぶり、実績や人柄について、前職の上長あるいは関係者からヒアリング調査を実施すれば、採用選考の客観的な情報として役立つはずです。最近はWeb上のアンケート形式で調査を実施するサービスも提供されており、場所や時間の制限は少ないことで率直な情報が得られるようです。
前職調査を実施するとなれば、現職の応募者は所属先に転職活動を明かしたくない、調査協力を依頼できる人が思い当たらないなどの事情もありますが、既に退職している応募者であっても、例えばハラスメント問題を起こしたなどの不都合な事実を隠したいと考える場合は、難色を示すかもしれません。
最近は、SNS上で問題投稿を行っているなど、社員の非違行為が会社の評判を毀損するリスクはご承知のとおりです。応募者の学歴・経歴に虚偽がないか、交友関係に問題がないか、あるいは犯罪行為や信用情報についての懸念が残る場合は、従来型の身辺調査(バックグラウンドチェック)を実施することも有効です。