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メンタル不調による休職と復職の対応

メンタル不調による休職と復職の対応

近年、メンタルヘルス不調(以下、「メンタル不調」と言います。)を抱える従業員への対応に課題を感じる企業が増えています。適切な休職・復職対応を行うことは、個人の健康維持だけでなく、企業の安全配慮義務の履行や労務リスクの回避という観点からも重要です。

御社においても、就業規則上の休職制度を整備して適切に運用すること、主治医や産業医などの医療専門家と連携を図ることで、実効性のある仕組みを構築しておくことが大切です。本号では、こうした休職制度を活用したメンタル不調者への実務的対応ポイントをお伝えいたします。

*参考* 主なメンタル不調の例

  • ① うつ病・うつ状態
    抑うつ気分、意欲低下、思考力低下、睡眠障害、食欲不振など
  • ② 適応障害
    職場や家庭など、特定の環境ストレスに対する反応(抑うつ・不安・不眠など)
  • ③ パニック障害・不安障害
    突発的な強い不安発作(動悸・息苦しさなど)、予期不安
  • ④ 双極性障害(躁うつ病)
    抑うつ期と躁状態(過活動、多弁、衝動的行動など)の反復

一般的に、怪我や手術などの身体的不調による休職では復職率が高い傾向にありますが、メンタル不調の場合は、長期化や慢性疾患の併発により復職が難しくなるケースが少なくありません。さらに、休職期間中に本人との意思疎通に齟齬が生じるなどして信頼関係が損なわれた場合には、トラブルに発展するリスクも高まります。

【お伝えしたい内容】

1. 休職発令

従業員は労働契約に基づき労務提供の義務を負っているため、体調不良などによって労務提供ができない状態は、債務不履行(契約違反)にあたります。しかし、企業はそのような従業員を直ちに解雇するのではなく、一定の合理的な猶予期間を設けて就業を禁止し、療養や回復を待って雇用継続の可能性を探らなければなりません。

*労働契約法第16条(解雇)
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

「休職」は労働法上で定められた制度ではありませんが、従業員が体調不良などによって労務を提供できなくなった際、すぐに解雇に踏み切ることは、解雇回避義務を怠った「解雇権の濫用」とみなされる可能性があります。就業規則に休職制度がない場合でも、一定の猶予期間を設けることが望ましいといえます。

遅刻や欠勤が続くなどの労務提供が不完全な状態であるだけでは、休職の要件を満たすことになりません。まずは本人に注意・指導を行い、それでも勤怠の改善が見られない場合は、医療機関での受診を促すことが必要です。医師の診断結果を踏まえ、健康悪化を防ぐために療養すべきかどうかを客観的に判断することが重要です。

医師による診断書の発行には数週間かかることもあるため、健康状態の悪化が懸念される場合には自宅待機を命じます。本人の体調が不安定であるにも関わらず「就労可能」と診断された場合には、医師との面談を依頼し、業務内容や勤怠状況を共有したうえで改めて意見を求めるのも有効です。

一方、従業員から休職を申し出る場合もありますが、会社が必ずしも休職を認める必要はありません。休職中の療養によって回復の見込みがあるかどうか判断し、就業規則上の休職事由・適用期間・復職手続き等に則して休職を発令します。なお、休職を発令せずに長期欠勤を放置するだけでは、解雇回避義務を果たすことにはなりません。

2. 休職期間中の対応

休職中は、従業員を療養に専念させるとともに定期的な状況報告を求め、顧客や取引先との連絡、他社での就業、個人の事業なども禁止すべきです。メンタル不調による療養は長期化しやすく別の疾患を併発する恐れもあるため、本人の状況報告をもとに様子を把握し、回復の兆しが見られる場合は復職の可否を慎重に見極めます。

休職発令に際して、設定した休職期間満了までに復職できなければ、「休職期間満了通知書」の交付により退職を確定させます。本人が何らかの理由を付け退職を先延ばしにする場合は、退職勧奨による合意退職を検討する対応も考えられます。ただし、会社から当初の休職理由と関係のない事由を持ち出すことはNGです。

復職の判断にあたっては、主治医の診断書だけでなく服薬状況などを確認しながら、健康状態の把握に努めます。健康状態が回復し、本人から復職の申し出があって復職可能と判断した場合は、「復職命令書」を交付します。見極めが困難なときは、休職期間を延長して経過観察を行うこともあります。

復職に際し、「残業ができない」などの条件を本人が申告することもありますが、あらためて主治医の診断による裏付けを得ること、産業医が選任されている場合には業務の内容と実態を照らし合わせて意見を求めることにより、必要に応じた短時間勤務・配置転換などの措置を実施します。

3. 復職支援と判断

とりわけメンタル不調者の復職に際しては、職場復帰への不安を軽減するなど、個別事情を踏まえた柔軟な支援が求められます。この手段として有効なのが「試し勤務(リワークプログラム)」です。「試し勤務」とは、通常1ヶ月程度の短期間で実施され、負担の軽い短時間勤務や軽作業などの業務を通じて段階的に復職を支援する措置を指します。

厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」
https://www.mhlw.go.jp/content/000561013.pdf

「試し勤務」の実施には就業規則上の根拠が必要であり、本人の同意を得たうえで実施条件(期間・内容・賃金・中断条件・評価方法など)を書面で交付することが重要です。メンタル不調者の「試し勤務」は、毎日定時に出勤するだけの内容に止まることもあります。産業医や主治医と連携し、勤務状況を観察しながら労務提供能力を客観的に判断します。

復職を直ちに発令するよりも、一旦「試し勤務」に従事させて復職の可能性を探る方が、実際に働いてみなければ分からない心身の状況を確認しやすいといわれています。「試し勤務」を経て、本人が再び体調不良を訴え欠勤が頻発する場合には、休職期間を延長しなければならないこともあります。

注意が必要なのは、主治医が「復職可能」と診断しているにも関わらず、実際には安定した勤務ができない場合です。主治医の診断書は信用性が高いため、会社がその判断を覆すことは困難ですが、「試し勤務」の経過を主治医へフィードバックし、再度意見を求める対応も考えられます。

「試し勤務」を経て、傷病が再発せず安定的に勤務できると判断された場合には、正式に復職を発令します。ただし、復職後も当面の間は定期的な面談を実施し、メンタル不調の再発防止と安定的な就業支援を継続することが大切です。その際、主な症状や主治医による治療内容(例:服薬により眠気が出るなど)をある程度知っておく一ことは、復職判断や産業医との連携の場面で役に立ちます。

*参考* 病気休暇制度の活用例

メンタル不調に限らず休職から復帰した従業員が通院治療を続けながら勤務できるよう、年次有給休暇とは別に取得できる「病気休暇」や、失効した年次有給休暇を積み立てて病気休暇と同様の目的で利用できる「失効年休積立制度」を導入している企業もあります。

前述のとおり、復職後の就業支援としては、所定労働時間を短縮する「短時間勤務」、始業・終業時刻の繰上げ・繰下げを行う「時差出勤」、休暇を取得しやすい職場や業務への「配置転換」などによって、より頻繁な通院治療を要する場合の負担を軽減することも有効です。

厚生労働省「特別な休暇制度」
https://work-holiday.mhlw.go.jp/material/pdf/category4/kyuuka2024.pdf

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