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雇用の出口戦略 (2)

雇用の出口戦略 (2)

雇用の入口に当たる採用活動について計画を立てるとき、ある程度楽観的な見通しを持てなければ、人手不足の状況で働き手の募集に踏み出す推進力は生まれません。一方、雇用の出口に当たる退職については、会社側と働き手が個々に抱える事情が複雑に絡み合い、なかなか前向きに考えにくい側面があります。

昨夏のリモノレターでは、組織の新陳代謝を促し事業環境の変化に対応するための、雇用の出口戦略についてご案内いたしました。働き手にキャリアの自律性を身に付けさせること、外向きに開かれた柔軟な組織を実現すること、事業譲渡の可能性を見据えた労務管理の整備を図ること、などの仕掛けづくりです。

リモノレター「雇用の出口戦略」2024.06.18
https://rimono.co.jp/2024/06/18/rimono_letter202406/

正面玄関から見送る定年退職は、会社が就業規則に定めた年齢制限によって、組織の新陳代謝を図る制度です。これに加え再雇用(継続雇用)の制度を取り入れることで、働き手は定年後の生活を計画することができ、一方で会社は当面の雇用関係を維持しつつ年功的な賃金コストを引き下げ、業務運営への影響を緩和する余地を生み出します。

定年退職を迎えた働き手は、自身のライフステージを意識して同業他社や異業種へ転出する、独立して事業を営むなど、再雇用以外の選択肢についても探ることができます。年齢的に従来のような気力や体力が続かなくなっても、特定分野における知識や能力を維持していれば、社内外で求められる役割を果たす「業務委託」などの形で活躍することができるかもしれません。

しかしながら、正規雇用であった働き手にとって再雇用は第一の選択肢となり得るため、結局顔ぶれが変わらずに新陳代謝を阻害してしまう状況が生まれることもあります。こうした背景には、会社側にも働き手の確保や育成の余裕がなく、定年後の働き手を引き止めて現状維持を図らなければ業務運営が立ち行かない事情があると推測できます。

厚生労働省 令和6年高年齢者雇用状況等報告集計
https://www.mhlw.go.jp/content/11703000/001357148.pdf

【お伝えしたい内容】

1. 勤務変更の柔軟さ

定年退職を迎えた働き手は、それまで正規雇用としての責任を負いながら、フルタイムで働き残業もこなしてきたはずです。しかし、再雇用後は時短勤務を希望する、残業を望まない、担当責任を持つことに負担を感じるなど、働き方に対する意識の変化が生じることがあります。これには個人差があり、自らのライフステージを考慮した選択である場合もあれば、従来の体力や気力が続かなくなったケースも考えられます。

定年再雇用者は、長期間にわたり知識や経験を積み重ねて力量を蓄えてきた点で、パートタイムの従業員とは異なります。こうした定年再雇用者の力を活用したい事情が会社にある場合、就業条件についての折り合いを付ける必要があります。例えば、週3日・1日5時間の時短勤務とする、勤務時間枠を超える業務については週単位で勤務日や就業時間を調整できるようにするなど、柔軟に対応してみてはいかがでしょうか。

定年再雇用の契約期間は1年間程度とし、契約更新にあたっては、会社が職場と本人の意向を踏まえ職務範囲や就業条件(フルタイムからパートタイムへ、月給制から時給制へ etc.)を調整していくことが一般的です。定年再雇用者の労働意欲・健康状態・家庭事情などは、時間の経過とともに変化し、従来通りに続けることは難しくなる傾向です。この意味においても、勤務変更に対する柔軟性が欠かせません。

また、定年退職で一旦それまでの立場を離れてしまうと、上長や同僚、あるいは社外の取引先においても、これまでの関係性を仕切り直さざるを得なくなります。上長から後進の指導を求められても接点を作りづらい、社外から取引相手としての交渉権限を見限られるなど、自身の立ち位置を見定めることが難しくなる場合もあります。

この意味において、定年再雇用者が安定して仕事を続けられるよう、社内での立場を明確にする職名を付与することで社内外の関係構築を後押ししてはいかがでしょうか。ラインの役職(部長など)と区別できて組織体制や職務範囲に適した職名(例:アドバイザー)を付与し、報告先の上長(レポートライン)を定めることが望ましいと言えます。

2. 実態としての定年

会社の経営状況によっては、事業運営や組織体制の維持を優先しなければならない場合があります。そうした場面で、定年を迎える働き手に対し画一的な定年退職・再雇用の制度を適用すると、心身ともに健康な第一線の管理職あるいは熟練の専門職などの、高年齢層の労働意欲を阻害してしまうことがあります。

そこで“実態としての定年”を当面代替できない部長職であれば63歳、専門職であれば65歳、というように職種や役割で個別に設定したり、賞与を含めた給与水準を継続的に維持したりするのも合理的な処遇です。事業や組織の骨組みを支えている人材については、役員に登用しないまでも、定年退職後にも従前の役職と報酬を確保することで、継続的な動機付けを図ります。

定年退職の年齢を定める場合は60歳以上とし(高年齢者雇用安定法第8条)、65歳未満に定めている場合は、原則として「希望者全員」を対象に65歳までの継続雇用制度を導入しなければなりません(同法第9条)。さらに直近の法改正では、70歳までの就業確保措置が企業の努力義務とされています(高年齢者雇用安定法第10条の2)。このため、同法の趣旨に基づき定年年齢を引き上げる場合、会社が必要と認める者に限定できない点には注意が必要です。

ちなみに、2025年3月末までは、老齢厚生年金(報酬比例部分)の支給開始年齢に応じて再雇用の対象者を限定できる経過措置が設けられていました。この期間においては、定年再雇用者の給与・手当を引き下げながら定年前と同様の業務に従事させたことで同一労働・同一賃金を求められたり、計画的に個人の年金受給開始のタイミングで雇止めにしたりするような慣行が通用していた実態がありました。

厚生労働省 「高年齢者雇用安定法の概要」
https://www.mhlw.go.jp/content/11700000/001245647.pdf

上記は、法令に則した定年再雇用制度の枠内で“実態としての定年”を運用するものであり、他の定年退職者については通例のように担当職務を変更し報酬水準を引き下げることも可能です。ただし、次世代の基幹層を対象に事業を支える計画的な人材育成に取り組むなど、いずれにしても組織の新陳代謝や事業環境の変化に対応するための準備が求められます。

3. 業務委託の選択

特定分野で経験を積んだ管理職や専門職が現役続行を望む場合、個人事業主として業務委託契約を結ぶ方法があります。定年退職者が担当していた顧客営業・設計管理・店舗運営・設備保守などの業務(定型業務に限らず)を切り出して外注し、業務委託契約に基づいた業務遂行の対価として報酬を支払います。

会社は報酬を月払いにする、複数年の契約とする、従来の仕事道具を提供するなど、安定性の面で後押しをします。本人の意欲と能力を前提に、年齢に関わらず現役として第一線に立ち続けるためには、新しい知識やスキルを身に付けなければなりません。他社のニーズにも対応できる実力がある場合は、商談設定・研究開発・資金調達などを支援する顧問として活動するなど、兼業や副業の可能性を広げることが可能です。

業務委託契約は、定年退職者の柔軟な働き方を可能にする一方、雇用関係から外れることで自己責任の範囲が広がるため、双方が法的枠組みとリスクを十分に理解した上で導入するべきです。仕事の完成を目的とする場合には民法上の「請負契約」、労務の提供自体を目的とする場合には「準委任契約」として位置づけられます。

例えば、期間限定のプロジェクトなどで仕事の完成による成果物の品質を担保したい場合には「請負契約」、一方、業務の進行過程で報告を受けたり業務内容を柔軟に調整したりしたい場合は「準委任契約」を選択するのが合理的です。定年退職者の仕事ぶりを熟知している場合、必ずしも成果物だけを求めたいとは限りません。

ただし、業務委託契約を締結していても、仮に定年退職者との間で紛争が生じた場合には、労基法上の労働者として見做される可能性があります。その結果、安全配慮義務がない、残業代の支払い義務がない、社会保険の加入負担がない、解雇制限がないといった会社側のメリットを覆されるおそれがあります。業務委託と雇用関係の違いを十分に吟味した上で、契約内容を作成し締結する必要があります。

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