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属人業務の解消

属人業務の解消

中小企業の人手不足による行き詰まりが続いています。人件費の高騰により働き手を確保できない、十分な待遇を用意できず転職を引き止められない、同様の理由から補充採用も難しい——こうした状況の中で人手不足の穴埋めを求められた社員が疲弊し、圧迫された職場環境が次の退職につながるといった複合的な課題が生じています。

東京商工リサーチ TSRデータインサイト 2026/01/07
2025年の「人手不足倒産」は過去最多 397件 サービス業他を主体に、前年比35.9%増
https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1202275_1527.html

その一方で、人的資源の限られた中小企業では業務の属人化が避けにくいものです。業務の属人化とは、特定の社員のみが経験則に基づき、業務の全体像やノウハウを把握して投入工数やタイミングを調整している状態を指します。しかし本人の力量を超えてしまうと、常態的な残業、体調不良時の業務停滞、課題解決が進まないといった、会社全体に影響を及ぼすリスクを孕んでいます。

端的な例として、資料やデータ作成・保管の属人化によって、本人でなければ必要な資料が見つけられない、共有ファイルから最新のものが判別できない、増え続ける紙資料の保管スペースを確保しなければならない、資料の盗難や持ち出しによる情報漏洩を管理しきれない、などの状況が思い浮かぶのではないでしょうか。

かねてより日常的に安定して見える属人化(以下、「属人業務」といいます。)の背景には、経営トップがリスクに気付きつつも業務を任せきりにしている、周囲がその存在に無関心であると同時に当然のように依存している、社員個人にとって属人業務を抱えることが心理的安全につながっているという現実もあります。

働き手が不足しているからこそ、あらためて属人業務に伴うリスクやコストを共有し、他の社員が代替できる仕組みを整えておくことは不可欠です。以下では、属人業務によって複雑化している業務フローや見えにくいコストを可視化し、属人化の要素を取り除くアプローチについてご案内します。

【お伝えしたい内容】

1. 職務評価の実施

キャリアアップ助成金の「賃金規定等改定コース」は、パート社員の基本給を増額した際に申請できる助成金です。賃金規定(規程)の改訂にあたり「職務評価」を実施した場合には、さらに加算を受けることができます。この「職務評価」とは、社員個々の業務内容や責任の程度を相対的に比較し、社内での待遇が適切な水準にあるかを把握するためのプロセスです。

日本では、従来から正規雇用と非正規雇用の賃金格差が問題視されてきました。一方、国際的には男女間の賃金格差(ジェンダー・バランス)がより大きな課題であり、国際労働機関(ILO)でもこの是正を目的とした「職務評価」の研究が行われています。その成果として、いくつかの評価モデルが考案されましたが、現状では個々の職務の大きさを定量的に把握できる「要素別点数法」が推奨されています。

厚生労働省『「職務評価」を使って処遇改善を行うとキャリアアップ助成金がさらにアップします!』令和7年3月31日
https://www.mhlw.go.jp/content/001541322.pdf

「要素別点数法」は、社員が担当する職務について必要となる知識(専門知識を含む)、コミュニケーション能力、身体的能力、精神的・身体的な耐久力、組織に対する責任の度合い、労働環境への適応力などの項目を設定し、ヒアリングを通じて評価する方法です。

厚生労働省・多様な働き方の実現応援サイト 職務分析・職務評価のマニュアル、ツール
https://part-tanjikan.mhlw.go.jp/estimation/doclist.html

この「職務評価」を応用して属人業務の実態を探ることで、特定の社員のみが業務内容・手順・ノウハウを把握し社内に共有されていない場合、どの業務をどの程度まで担っているのか、なぜ他の社員が代替しにくいのかといった点を整理していくアプローチが考えられます。そのうえで、属人業務に内在するリスクや見えにくいコストを抽出していきます。

2. 見えにくいコスト

属人業務は、当該個人の「自分にしかできない」という思い込みによって膨張する傾向があります。例えば、資料を焼き直してチェックを繰り返す、第三者には分かりにくいルールを抱え込む、些細な課題を拾い上げて会議を設定する、デジタルツールを導入しても変則的に使おうとする、本来不要な作業に周囲を巻き込むなどの形で、見えにくいコストが発生する可能性があります。

本来であれば、ローテーションの実施により属人業務の解消を促すことが望ましいのですが、現実的には兼任配置などによって員数を補うので精一杯、といった状況もあります。兼任配置を受けた担当者が属人業務を学ぶうちに既存のやり方に同調してしまう、効率化を図ろうとしても衝突が生じて業務が進まない、さらには不協和音が続くことで離職につながるといったことが起こりかねません。

このような場合には、期間限定のプロジェクトチームを立ち上げ、属人業務を抱える社員を参加させるアプローチを試す価値があります。必ずしも、属人業務そのものをプロジェクトの直接対象とするのではなく、例えば、営業管理における属人業務を取り上げる場合、売掛金回収の円滑化を目的とするチームに経理・営業管理・営業窓口の担当者を参加させると仮定します。

経理が債権債務の状況を確認し、営業管理へその状況を共有する、営業管理は営業会議で管理表を配布する、営業窓口が担当取引先へ督促を行う、営業管理が経理へ結果を報告し、経理が売掛金の振込みを待機する——。一見すると部門間で連携できているように思えますが、実際は売掛債権の回収が円滑に進んでいるとは言い難い状況です。

プロジェクトチームで議論を深めていくと、例えば経理と営業管理が管理表を二重に作成している、売掛金支払期日の基準が曖昧である、期日超過の一次通知が行われていない、営業窓口が片手間で督促を行っている、販売目標達成のため月末に売掛残高を積み上げているなど、個々の惰性で業務が継続されている実態が明らかになることがあります。

3. スモールステップ

属人業務の存在が推測される場合、現状の課題を洗い出すことはそれほど困難ではありません。業務を小さな単位に分解し、投入工数と成果のバランスを概算しながらチームメンバーによって議論していきます。上記の例であれば、経理と営業管理における管理表の二重作成や連携不足といった課題はほどなく見えてくるはずです。

しかしながら、属人業務を正面から問い直すことで摩擦や衝突が生まれれば、属人業務を崩すことは難しくなってしまいます。例えば、管理表が個人の拘りによって独自に加工されている、あるいは会議の日程調整などで時間を消耗してしまい部門間の連携に手が回らないなど、その裏側で属人業務を抱える個人が大切にしている仕事の流儀や価値に触れることに配慮する必要があります。

属人業務の解消にあたっては、一度に大きく変えようとせずにスモールステップを踏むアプローチが効果的であるといえます。例えば、経理と営業管理が協力してシンプルな管理表を作成する、期日超過通知を自動配信する、営業会議を定例化し開催日時のサイクルを固定するなどの組み合わせを少しずつ試していきます。

また、社内全体を見渡して業務量や難易度に変化が見られたときには、新しいプロジェクトを設定し、同様の取り組みを繰り返すことが求められます。一般的には定型業務に関する改善が中心になるはずですが、経営管理・企画調査・研究開発などの非定型業務においても、設備や資材調達などの補助業務に属人化が潜んでいないかを探ることができます。

以上のように、属人業務が人手不足と表裏一体であるようにうかがえるときは、継続的な取り組みによって経済合理性から外れる要素を解消していくことが肝要です。それでも人手不足によって行き詰まりが生じる場合には、採用募集に拘るだけでなく業務委託などの外部リソースの活用も視野に入れるべきでしょう。

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