地元スーパーの店舗入口で「ダブルワークが出来るようになりました!」というスタッフ募集の掲示が目に付きました。全社または店舗単位でダブルワーク(以下、「副業・兼業」といいます。)を受け入れて必要な要員数を確保したいのだろうと推測されます。副業・兼業は本来、法令で制限されていることはなく、会社が禁止してきた経緯があることはご存じかもしれせん。
従来から、パート・アルバイトに限らずフルタイムの正社員であっても、個人の生計を向上したい、家業を手伝いたい、独立の準備をしたいなど、さまざまな理由で副業・兼業を行う例がありました。また、会社に届け出ることなく他社に雇用されている、フリーランスとして副業・兼業を行っている、親族・知人の仕事を手伝って報酬を得ている、といった例も散見されていました。
しかしながら、現在は副業・兼業を含む多様で柔軟な働き方を受け入れなければ、働き手の確保が困難になっています。先行して雇用契約を結んでいる他社での仕事が「本業」となり、後から雇用契約を結ぶ会社での業務が「副業・兼業」に位置付けられますが、会社には「本業」を持つ人材を送り出す側、受け入れる側の双方の立場が存在します。
本業、副業・兼業ともに雇用関係において行われる場合には、労働基準法にもとづき自社・他社を横断した労働時間の通算や上限規制、さらに労働安全衛生法による健康管理への配慮が求められます。例えば、フルタイム正社員の副業・兼業を受け入れる場合、労働時間の通算によって、始業時刻から時間外労働の割増賃金を支払う必要があります。
また、働き手の数を確保するだけでなく、即戦力となる経験者や社内で必要とする専門人材を獲得するために、あえて副業・兼業人材の採用に踏み切る場合もあります。以下では、就業規則にもとづいて副業・兼業を審査すること、労働時間の管理や社会保険を適切に取り扱うこと、キャリア形成を目的として副業・兼業を促進することなどについてご案内いたします。
エン株式会社 「副業・兼業」に関する企業の実態調査 2025/10/30
https://corp.en-japan.com/newsrelease/2025/43555.html
【お伝えしたい内容】
1. 副業・兼業の審査
多様な人材と働き方の実現を目指す考え方に即して言えば、自社で本業を持つ社員が副業・兼業を希望する場合には、原則容認の届出制で対応することになります。しかしながら、心身の負担増加に見合った健康管理、本業に集中する誠実勤務、営業情報等の秘密保持、社内外の信頼関係などを考慮し、届出制ではなく許可制によって運用することが望ましいと考えられます。
就業規則に副業・兼業に関する申請手続を定め、申請内容が制限事項に抵触していない点、遵守事項を誓約できる点を審査します。所属長と連携を取ったうえで一定の期間を区切り許可をする、自社での本業に問題が発生した場合には副業・兼業の是正を求める、といった対応を図ります。なお、初回は副業・兼業の試用期間と位置付けて3か月程度の短い期間とすることも合理的です。
一方、他社で働く社員の副業・兼業を受け入れる場合には、フルタイム正社員がパート・アルバイトとして勤務する、パート・アルバイトが正社員として勤務する、複数のパート・アルバイトを組み合わせることなどが想定されます。採用条件を具体化する前に、本人が副業・兼業を行う理由や勤務先から許可を得られる可能性を確認することが出発点となります。
異業種を経験したいのか、時間を切り売りして収入を得たいのか、あるいは親族・知人の仕事を手伝い報酬を得たいのか。長期勤務を前提としない場合には、必要最小限の教育研修を実施して即戦力としての働きぶりを観察する方法が考えられます。とくに専門人材を採用する場合には、人間関係を含めた職場環境に適応できるかどうかが肝要になります。
過去の裁判例を見ると、副業・兼業の送り出しや受け入れをめぐる問題が紛争化するケースでは、一般職層の社員が十分な労務提供をできず会社の信用を損なったという事例よりも、管理職層の社員が会社の許可を得ることなく本業で培った能力や顧客関係を利用して報酬を得た結果、競業避止義務、秘密保持義務違反などを問われるケースが多いことがわかります。
2. 労働時間・健康管理・社会保険
労働基準法38条第1項では「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と定められ、副業・兼業を行う場合には双方の労働時間を通算しなければならないと解釈されています。本業および副業・兼業の労働時間を通算した結果、時間外労働が発生した場合にはその時間外労働を行わせた会社が割増賃金を支払う必要があります。
このため、副業・兼業を行う本人から労働時間を確認しなければならず、管理負担が大きくなるという課題があります。そのため、あらかじめ本業先および副業・兼業先の会社間で時間外労働の上限規制の範囲内に収まるよう、自社での労働時間の枠を合意しておき、他社での労働時間は合意した範囲内であることを前提に労働時間を管理する方法が考えられます。
とはいえ、現実的には、会社間で労働時間や業務内容について情報交換することは容易ではありません。また、雇用関係のないフリーランスとして行う副業・兼業は、時間外労働の上限規制の対象にはなりません。体調維持に関する自己管理を指示したうえで心身の不調があれば申し出を求め、副業・兼業の業務量を調整するなどの健康確保措置を講じることが大切です。
社会保険(厚生年金保険、健康保険)については、本業と副業・兼業の労働時間を合算して適用要件を判断することはありません。双方で適用要件を満たす場合には、本業と副業・兼業の報酬を合算したうえで標準報酬月額を算定し、保険料を決定します。
同様に、雇用保険についても本業と副業・兼業の労働時間を合算して適用要件を判断することなく、双方で適用要件を満たす場合には主要な賃金を受ける雇用関係において被保険者となります。他方で、労災保険については本業および副業・兼業の賃金を合算し保険給付を算定するほか、労災の認定についても場合本業と副業・兼業による業務負荷を総合的に評価することになっています。
厚生労働省 「副業・兼業に関するガイドライン わかりやすい解説」 2025年3月
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000996750.pdf
3. 社内副業・社外連携
上述のとおり、副業・兼業の目的として収入を増やしたい、異業種の仕事を経験したい、あるいは友人や仲間と一緒に仕事をしたいなど、個人的な事情による場合があります。これに対して、会社として従業員のキャリア形成を後押ししたい、潜在的な能力を発揮してほしいと考える場合には、「社内副業」を後押しする仕組みが考えられます。
現時点での担当業務にとらわれず、例えば、情報技術に関心のある社員がシステムやネットワークを管理する、お菓子作りが得意な社員がカフェスペースを運営する、面倒見の良い社員が中途採用の受入教育を担当するなど、社外の人材を採用せずにできることは多くあるはずです。
従来から、本人の力量や資質を見込んで業務を兼任させる、あるいは社員の自発的な行動によって担当範囲を広げるなどのケースがありました。しかし、会社が新たに必要とする業務を「社内副業」として運用する方法も考えられます。社内副業として担う業務に対して手を挙げる社員を募集し、本人の資質や適性を審査したうえで担当業務の負荷を調整し、所定労働時間を明確に分けて従事させる仕組みです。
もうひとつ、副業・兼業の別形態として、以前ご紹介した「社外連携」の仕組みがあります。他社と共同で取り組む事業やプロジェクトに送り出し、社員が会社を代表する立場で力を試すこと、切磋琢磨による成長プロセスを経験すること、社外でのネットワークを構築することなどを通じて、キャリアの幅を広げる機会に繋げます。
社内副業・社外連携を副業・兼業として位置付けるならば、社員が本来担当する業務(本業)との割合を設定するなどの管理が求められますが、社内の副業と本業の労働時間と合算して管理することは、比較的容易です。業務報告は本業および副業でそれぞれに求められるため、必要に応じた手当を支給する対応も考えられます。
RIMONO Letter「雇用の出口戦略」2024.06.18
https://rimono.co.jp/2024/06/18/rimono_letter202406/