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カスハラの二面性

カスハラの二面性

「カスハラ」という言葉がなかった頃、顧客が商品・サービスや接客態度に不満を訴える行為は「苦情・クレーム」と呼ばれていました。小売店などで苦情が発生すれば店長が前面に立って対応し、強硬なクレームは本社に設置された「お客様相談室」が引継いで金銭解決を図ることもありました。

2026年10月施行の改正労働施策総合推進法*により、事業主には、カスタマーハラスメント(以下、「カスハラ」といいます。)から働き手を保護するための雇用管理上の措置を講じることや、カスハラの被害を受けた働き手が相談・通報をしたことを理由に不利益な取り扱い(例えば、もみ消しなど)をしないことが義務付けられました。

*改正労働施策総合推進法第33条(職場における顧客等の言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)において、カスハラに関する事業主の義務が定められています。

カスハラはパワハラと同様に、優越的な関係を背景とした不当な言動と捉えることができますが、顧客や取引先との関係の中で対応しなければならない点で異なります。 例えば、その対応に時間と労力を費やす、業務上の支障・停滞が生じる、働き手が心身にダメージを負う、風評が拡散され企業の信頼を損なうなどといった事態が考えられます。

今回の法改正以前から、企業は労働契約法に基づく安全配慮義務を負っており、顧客等による迷惑行為から働き手を守ることが義務づけられていました。悪質なカスハラ行為に暴行や脅迫などが伴う場合、企業は警察に通報すべきであり、業務遂行に支障が生じた場合には損害賠償を請求できることもあります。

過去のリモノレターでもカスハラについて触れてきましたが、本号では、自社の働き手がカスハラ被害を受ける側になる一方で、同じ働き手が取引先や関係者に対しカスハラを行う側にもなり得るという、二つの側面についてお伝えしていきます。

【お伝えしたい内容】

1. カスハラを理解する

厚生労働省「正社員と非正規雇用労働者との間の 不合理な待遇差は禁止されています」令和8年2月
https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/foundation/harassment_list/customer-hara/

労働施策総合推進法では、カスハラに先立ちパワーハラスメント(以下、「パワハラ」といいます。)に関する規制が定められていました。カスハラとパワハラには、人間関係における優越的な立場を利用し個人の人格や尊厳を傷つける言動であるという共通点があります。 両者について、法令上の定義や行為の類型を比較すると理解を深めやすくなります。

A. パワハラの定義と類型 職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であり、業務上必要かつ相当な範囲を超え、働き手に身体的もしくは精神的な苦痛を与えて就業環境を害すること。

パワハラ行為の類型としては、暴行・傷害、暴言・威圧・侮辱、人間関係からの切り離し、仕事の強制・妨害、プライバシーの侵害などが挙げられる他、セクハラ行為を伴う場合もあります。

B. カスハラの定義と類型 職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であり、業務上必要かつ相当な範囲を超え、働き手に身体的もしくは精神的な苦痛を与えて就業環境を害すること。

カスハラ行為の類型は要求の内容が不当である場合と要求の手段が不当である場合に区分されています。

  1. ①内容が不当である場合
    要求の内容に合理的な理由がなく、全く無関係な要求、対応が著しく困難な要求、不当な損害賠償の要求などを行う。
  2. ②手段・態様が不当である場合
    要求の内容に一部妥当性があっても、暴行・傷害、暴言・威圧・侮辱、プライバシーの侵害、執拗な言動、居座り、監禁などの不当な手段・態様で要求を行う。

    カスハラを抑止するためには、顧客によるカスハラを容認しないこと、悪質な場合には警察へ通報するなど厳正に対処すること、被害を受けた働き手に不利益な取り扱いをしないことなどを基本方針として定め公表する措置が有効とされています。店舗や施設などでは、カスハラに対する基本方針を掲示するケースが増えています。

2. カスハラに対応する

カスハラが発生する背景には、働き手の商品・サービスに関する知識や業務プロセスへの理解が不足しているために、顧客の期待に応えられないケースもあると考えられます。カスハラを抑止するためには、十分な業務研修が欠かせません。入社後間もない働き手が「研修中」のバッジを身に付けるのは、顧客の期待と実際の対応との間に生じるギャップを緩和するための工夫の一つです。

苦情が発生した際には適切な対応を行いつつ、カスハラを誘発しないために、初期対応の手順をマニュアル化して定期的にロールプレイング研修を実施することも有効です。冷静に顧客の要求内容を聞き出す、事実関係を確認して認識の齟齬を防ぐ、他の働き手や責任者に応援を求めるなどの他、防犯カメラによる録画や電話対応の録音を行うこともあります。

苦情・クレームとカスハラの境界は、カスハラの定義に照らして見極めることができます。ただし、カスハラの厄介な点は行為が繰り返されるうちに要求の内容や手段・態様がエスカレートすることであり、この点でパワハラとも共通しています。また、 同じ働き手に対するカスハラが繰り返される場合も少なくありません。

店舗や施設などの現場では、まずカスハラ行為を受けた働き手をその場から退避させること、責任者を含む複数名で制止すること、暴行・脅迫や不退去などが発生した場合には警察へ通報することも必要になります。 カスハラ行為が一旦収まった後も、SNSなどの投稿が拡散されていないか、継続的に確認することが欠かせません。

一方、カスハラ行為を受けた働き手には、安全な場所で休息させる、責任者が付き添い気持ちを落ち着かせる、当日は早めに退勤させるといった対応を行います。また、商品・サービスの品質や接客対応に不備がなかったかを点検することも大切です。

3. カスハラを防止する

カスハラのもう一つの側面は、自社の働き手が企業間取引においてカスハラ行為を行う側になり得ることです。 仕入れ、購買、外注などの窓口を担当する働き手が、優越的な立場を利用して取引先に不当な要求を行ったり不当な言動を用いたりすれば、カスハラに該当する可能性があります。

例えば、業務上必要な値引き交渉であっても、合理性のない要求や不当な手段・態様を繰り返せば、カスハラと見なされ企業間の信頼関係を損なうことにもなります。取引先に対するカスハラ行為を禁止する方針を社内に周知するとともに、就業規則にカスハラ行為の禁止、事案発生時の対応手続き、懲戒処分などを定めておく必要があります。

改正労働施策総合推進法第33条第3項では、自社の働き手によるカスハラ行為について取引先から指摘を受けた場合、事業主は事実確認などに応じなければならない旨が定められています。取引先と接する機会の多い働き手の言動に注意を払い、取引状況について随時報告させる、担当者を定期的に交代させるなどの取り組みが望ましいと言えます。

反対に、自社の働き手が取引先から過大な要求を受ける、執拗に叱責される、あるいは私的な関係を持ちかけられるなどのカスハラを受けていると申告した場合には、上長が電話を代わる、打ち合わせに同席するなど、働き手を守るための対応が必要です。 また、取引先に対して事実確認への協力を求めることもカスハラの抑止につながります。

取引先によるカスハラについて事実確認を行う際には、申告した働き手にも納期の遅延、説明不足、対応の放置など、取引先の不満につながる不備がなかったかを点検します。また、目標達成の強いプレッシャーなどからストレスを抱えた働き手が、些細な行き違いをきっかけに、代償行動としてカスハラに及ぶことも考えられます。

なお、カスハラ防止とは別の枠組みとして、発注者と受注者の対等な関係に基づいて価格転嫁や取引の適正化を図るため、独占禁止法や中小受託取引適正化法などによる規制が設けられています。

公正取引委員会「取適(トリテキ)法特設サイト」
https://www.jftc.go.jp/toriteki_2025/

【お知らせ】
本稿「RIMONO Letter」は働き方改革をテーマに、4年間にわたり顧問先様への配信、その後はホームページでの記事掲載を続けてまいりました。この度、諸事情により新規記事の掲載を年内で休止することとなりました。

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