雇用の出口戦略

昨今、比較的好調な上場企業が早期退職・希望退職に踏み切るというニュースを見聞きすることが増えています。選択と集中に即して成長分野以外での固定費を削減し、事業環境の変化に対応する動きです。雇用市場の流動化にあたり、いずれ必要な要員は補充採用できる算段があるのかもしれません。

これに対して財務体質や組織規模に余裕がない場合には、なかなか早期退職・希望退職を募集することはできません。仕事に前向きで有為な人材、そうとは言えない人材を区別することはできても、組織変更や配置転換によって新陳代謝を図ることはままならず、閉塞感を抱え続けることになります。

企業規模の大小に関わらず、前向きな人材が長く安定して仕事をこなしてくれることが大切です。しかしながら、同じメンバーで同じ仕事を続けていると新しい発想が生まれにくくなり、事業環境の変化に気付いていながら古株の社員が旧来のやり方や考え方にこだわって、改革が進まないといった場合があります。

残念ながら、会社を長い間支えてきた優秀な人材であっても若返りできるものではありません。同じひとが同じ役職に居着いている状況においては、「会社は変わらない」、「将来が見えない」、「自分にはチャンスがない」という否定的な考えが、次世代の基幹層にも及びかねません。

会社が雇用の出口を戦略的に準備し、組織の新陳代謝や事業環境の変化に対応できるような仕掛けづくりをすることは、社外で通用する力を身に付けたいと考える有為な人材ばかりでなく、未だキャリア形成の可能性に気付いていない社員や他の選択肢を探すことなく会社に身を寄せている社員にとっても望ましいことです。

【お伝えする内容】

1. キャリアの自律性

過去の数十年間に、世界基準で事業を展開する上場企業において、いわゆるリストラが繰り返され従来の終身雇用制度が実質的に崩壊することになりました。その結果、社員に対してキャリア形成の自律性を求める流れが生まれています。

個々の社員が職務能力を高めつつ社外へ出ても必要とされる人材になることが、労使双方の共通認識になりつつあります。社員は与えられた仕事に受け身で応えるだけではなく、キャリア形成を意識しつつ職務能力向上のための勉強を続けなければなりません。

会社には、社員のキャリア形成を支援するものの、先ずは自社に職務能力向上の成果を還元して欲しいとの本音があります。キャリア形成を支援した社員が辞めてしまい、代えがきかない人材の離職につながるのであれば、こうした取組みは経営の安定と両立しないと慎重になる傾向もあります。

しかしながら、組織規模の大きさに関わらず、キャリア形成の支援と事業を支える計画的な人材育成に取組むことで、雇用市場において魅力的な企業として選ばれる、新しい人材の採用・定着によって自社の強みを伸ばす、自社に不足している技術や知識を獲得する、世代交代によって組織の新陳代謝を促すなどの展開が考えられます。

社員のキャリア形成に関連して、雇用保険を原資とした「人材開発支援助成金」の制度があります。職務能力向上に必要な経費や賃金の一部等を助成する制度です。実際にこの助成金を利用しない場合であっても、制度資料を読み込むことで、キャリア形成についてのヒントを得ることができます。

厚生労働省「人材開発支援助成金」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1.html

2. 外に開かれた組織

会社がとりわけ将来性を見込む人材に武者修行を体験させるだけではなく、このまま現状維持でよいものかと閉塞感・停滞感に悩んでいる人材を、事業活動の一環として社外連携に参画させることで、本人の視野を広げる、職務能力を磨き上げる、人間関係のネットワークを構築させるなどの後押しをするという取組みがあります。

社外連携とは、資本関係の壁を乗り越えて他社と共同で取組む事業やプロジェクト、業界を横断した団体活動などです。社員が会社を代表した立場で力試しする、切磋琢磨による成長プロセスを経験する、さらに事業連携から一歩踏み出して相手先に出向させることで、自分のキャリアは自分のものであるという自律性を高める機会を提供します。

自社とは異なる職場環境で普段は経験できない業務に従事することにより、感覚が研ぎ澄まされるだけでなく、自社の良い点・悪い点をあらためて認識することができるはずです。

社外連携の見つけ方は様々です。取引先や業界団体の紹介を受ける、インターネットで候補先を検索する、商工会議所開催のイベントに参加する、国内外の見本市や展示会に参加するなど、事業成長や経営資源の補完を目的とした社外連携を立ち上げ、信頼関係を構築する流れを作ります。

内向きに閉じることなく外に開かれた柔らかな組織においては、社員の新たなキャリアの選択肢が生まれ、社外連携の兼務や在籍出向からの転籍、独立などの形態で、雇用の出口が実現することになります。

商工会議所のビジネス交流会
https://www.jcci.or.jp/support/meetup/

3. 事業譲渡の可能性

社員にキャリアの自律性をもたせること、外向きに開かれた組織を実現することとは別次元で、雇用の出口を準備しておくという仕掛けづくりもあります。

企業規模の大小を問わず、既存事業が行き詰まるなかで雇用を守りたい、事業成長を担う後継者が不在である、新規分野に注力したいなどの課題を解決したい場合には、M&A(合併・買収)市場において事業譲渡を仕掛けることで、会社全体あるいは一部の事業部門に在籍する社員を対象に転籍を実施します。

転籍にあたっては、管理職・基幹職・専門職・一般職などの職層によってその選択肢は違ってきますが、主力となって活躍できる社員、離職する社員、不本意な退職に追い込まれる社員、淡々と事態を受け入れる社員などに分かれます。

残留する社員は、新しい組織での紆余曲折に巻き込まれ、疑心暗鬼な状態で仕事を続けざるを得ない状況に置かれてしまうことも稀ではありません。事業譲渡に伴う動揺で組織全体が崩壊しないよう、経営の責任として雇用環境・労務管理の整備を図っておくことが大切です。

雇用条件や賃金設定の整備、時間外・休日労働や有給休暇の管理、ハラスメント問題への対応、私傷病による休職制度、育児・介護休業制度など、最新の法令や労使関係に適応し就業規則の改訂や雇用契約書の更新を行うだけではなく、その運用がこなれるように労務管理をしていかなければなりません。

M&A(合併・買収)にあたってのデューデリジェンス(投資対象となる企業の価値やリスクなどの調査と評価)は、労務管理の状況についても実施されるため、未払い残業代のリスクなどは事業譲渡の対価に影響を及ぼす可能性があります。

RIMONOでは労務監査のクラウドサービスを利用して労務管理の整備、雇用環境の維持についてのご支援させていただいております。

労務監査クラウドサービス「ヨクスル」
https://roumu-kansa.jp/

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