両立支援制度の見直し

2025年4月より「育児・介護休業法」、「次世代育成支援対策推進法」、「雇用保険法」が改正施行され、育児・介護との両立支援(所定時間外労働の制限、子の看護休暇等)、雇用保険給付(育児休業給付、高年齢雇用継続給付)に関する制度の一部が変更されます。

昨今は、晩婚化・非婚化にともない少子化問題がまずます深刻になる一方、老年層は医療・介護の充実によって死亡率が減少し、退職・引退後のライフ・ステージが長くなりました。国は仕事と家庭の両立支援制度の見直しにより、少子高齢化の軟着陸を目指していると思われます。法改正よりも公共政策の意味合いが色濃くなった働き方改革は、さらに一歩進むことになるようです。

【お伝えしたい内容】

1. 「育児・介護休業法」の改正による柔軟な働き方の促進

育児・介護休業法の改正により、小学校就学前の子を育てる従業員や介護に直面した従業員が育児・介護を両立できるよう柔軟な働き方を拡充すること、さらに育休取得状況等を公表することが、2025年4月から企業に求められます(顧問先様へ就業規則等の改定について別途ご案内いたします)。

  1. 所定外労働の制限(残業免除)対象を小学校就学前の子を養育する者まで拡大
  2. 育児のためのテレワーク導入が努力義務化
    3歳に満たない子を養育する従業員を対象とした短時間勤務制度(1日6時間勤務、始業時刻の変更等)の適用が困難な場合、テレワークを選択可能とする措置を講ずることが事業主の努力義務とされる。
  3. 子の看護休暇*の対象となる範囲を小学校3年生終了まで延長
    感染症による学級閉鎖等、入園式・入学式、卒園式の場合も取得可
    勤続6か月未満の従業員について労使協定による除外を廃止
    *「子の看護等休暇」に名称変更される。
  4. フルタイムでの柔軟な働き方を実現するための措置が義務化(ただし、2025年10月施行予定)
    3歳以上、小学校就学前の子を養育する従業員を対象に、フルタイムでの柔軟な働き方を実現するための措置を講ずることが事業主の義務とされる。
    具体的には、事業主は以下の措置のうち2つ以上を選択。3歳になるまでの適切な時期に面談等によって個別周知・意向確認を受けた従業員は、1つを選択する*。
    ① 始業時刻等変更(時差出勤、フレックスタイム制)
    ② テレワーク等(10日/月)
    ③ 保育施設の設置運営等
    ④ 新たな休暇(10日/月)
    ⑤ 短時間勤務制度
    *詳細は厚生労働省の省令によって施行日までに通知される見込み。
  5. 介護離職防止のため、個別周知・意向確認、雇用環境整備等の措置が義務化
    ① 介護に直面した従業員に対する個別の周知・意向確認の措置
    ② 介護に直面する前の早い段階(40歳等)での両立支援制度に関する情報提供
    ③ 仕事と介護の両立支援制度を利用しやすい雇用環境の整備
    ④ 要介護状態の対象家族を介護する労働者にテレワークを選択させる(努力義務)
    ⑤ 勤続6か月未満の従業員について労使協定による除外を廃止
  6. 男性による育児休業取得状況の公表義務を従業員数300人超の企業まで拡大

☆「次世代育成支援対策推進法」
従業員数100人超の企業に対して育児休業に関する行動計画の策定を義務づけることで、業務繁忙や人手不足などを理由に育児休業を取得させない等の事例発生を防ぐ役割を果たす法律が、2035年3月31日まで延長されます。

東京労働局「育児・介護休業法、次世代育成支援対策推進法改正ポイントのご案内」
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/001842105.pdf

2. 「雇用保険法」の改正による育児休業給付の拡充

従来の雇用保険による育児休業給付制度である「育児休業給付金」と「出生時育児休業給付金」に加えて、2025年4月から「出生後休業支援給付金」および「育児時短就業給付金」が新たに支給されます。

これらの給付金の充実により、とくに男性従業員の給与収入を補完し育児休業の取得を促進する効果が期待されています。御社においても、育休取得の増加に備なえなければならないだろうと思います。

出生後休業支援給付金
子の出生直後の一定期間(男性は子の出生後8週間以内、女性は産後休業後8週間以内)、雇用保険の被保険者とその配偶者の両方が14日以上の育児休業を取得する場合に、最大28日間、休業開始前賃金の13%相当額を給付する。ただし、ひとり親家庭の場合などには配偶者の育児休業取得を求めない。

育児時短就業給付金
雇用保険の被保険者が、2歳未満の子を養育するために時短勤務をしている場合、子ども・子育て支援金を充当することで、時短勤務中に支払われた賃金額の10%相当額を給付する。

現行の育児休業給付金と出生時育児休業給付金の給付率は、休業開始時賃金日額の67%(手取りで80%相当)ですが、出生後休業支援給付金を合わせて受給することで給付率が80%(手取りで100%相当)となります。

厚生労働省「令和6年雇用保険制度改正(令和7年4月1日施行分)について」
*育児休業等給付関連は7ページ以降
https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/001293213.pdf

☆育児休業の実態
令和5年度の調査によれば、民間企業で働く男性(正社員)の育休取得率は30%程度まで上昇していますが、育休取得期間は短いことがわかります。

育休取得率 女性(正社員) 84.1%
男性(正社員) 30.1%
育休取得期間 女性(正社員) 12か月から18か月未満 32.7%
男性(正社員) 1か月から3か月単位未満 28.0%
5日から2週間未満 22.0%
2週間から1か月未満 20.4%

厚生労働省「令和5年度雇用均等基本調査」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-r05/03.pdf

☆育休ポイント制度
行政による子育て支援の施策に対し、民間企業でも育休取得を支援する職場環境をつくろうと、育休取得者の業務を代行する社員を対象にしたポイント制度が導入され始めています。育休取得者が気兼ねなく休業でき、職場のメンバーも快く業務を代行することができます。代行する業務の割合に応じてポイントが付与され、そのポイントは賞与支給額に上乗せされます。

NHK おはビズ経済ニュース「男性育休 取得率上げるには… “業務引き次ぐ社員”へ支援」
https://www3.nhk.or.jp/news/contents/ohabiz/articles/2024_1009.html

☆子育て世代の課題
以下は東京都の少子化対策に関する資料です。御社で働く子育て世代のライフ・ステージ上の課題を理解し、彼らが落ち着いて仕事に向き合い、持てる力を発揮できるような環境を整えるべくご参考になれば幸いです。

東京都「東京都の少子化対策 2024」
https://www.spt.metro.tokyo.lg.jp/kodomoseisaku/book/syousikataisaku2024/book.pdf

3. もう一つの両立支援「高年齢雇用継続給付」は縮小へ

定年退職後の高年齢者は体力・気力の低下や健康問題を抱えてしまうライフ・ステージに入ります。そのため、個人資産等生活に必要な資力を持つ場合を除いて、65歳からの年金受給までは自立できる収入の確保が必要です。

年金受給年齢までの雇用環境の整備を目的とした「高年齢者雇用安定法」は、60歳未満の定年を禁止し、65歳までの確保措置(65歳までの定年の引き上げ、継続雇用制度の導入または定年制の廃止)のいずれかを企業に義務付けています。また、2021年4月の改正によって70歳までの就業確保が努力義務として追加されました。

雇用保険の「高年齢雇用継続給付」は、雇用保険の被保険者期間が5年以上である60歳以上65歳未満の被保険者に対して、再雇用等による賃金額が60歳到達時の75%未満となった場合に、最高で賃金額の15%に相当する額を支給するものです。こうした意味では、もう一つの両立支援と言えるでしょう。

しかしながら、新たに60歳となる労働者から60歳到達時の賃金の低下率に対する支給率は、2025年4月以降、現行の15%から10%に引き下げられます。

労働人口の減少や働き方改革の浸透を背景として、65歳以上の高年齢者が働ける企業の割合が増え、パートタイム・有期雇用労働法により同一労働同一賃金の原則=公正な待遇の確保が定められたことで、高年齢雇用継続給付の役割は縮小する流れになっています。

厚生労働省「高年齢雇用継続給付の見直し(雇用保険法関係)」
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000744250.pdf

高年齢雇用継続給付の縮小は、同給付の受給者の雇用が多いほど、企業に大きな影響を与えます。本人の希望や健康状態に応じて処遇の変更や柔軟な働き方を選択できることは、小さな子供を養育する従業員と同様に高年齢者においても大切です。加齢にともなう身体機能や認知能力の低下などに配慮し、労災事故を防ぐための環境整備も必要となります。

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