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「制度未満の賃上げ検討について」(後編)

「制度未満の賃上げ検討について」(後編)

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昨年後半からの経済動向で最も注目すべき点は、数十年ぶりに物価が上昇しているということです。このため、物価高による実質賃金の目減りに対応し、とくに子育て世代の社員を対象に、基本給を一律に上げるベースアップ(ベア)を中心とした賃上げが求められています。

従業員にとって、収入が上がるほどうれしいことはなく、仕事へのやる気や満足感も高まります。それでは、どのくらいが適切な賃上げの水準であるか? 賃上げについて考えるうえでのいくつかヒントをご紹介いたします。

独立行政法人労働政策研究・研修機構
国内統計:消費者物価指数(2023年1月20日更新)
https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/covid-19/c20.html
国内統計:賃金(2023年1月10日更新)
https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/covid-19/c10.html

なお、御社が既に人事制度(等級制度、賃金制度、評価制度等)を構築されている場合や、成長分野の事業に積極的な人材登用を行っている場合には、各々賃上げの枠組みがあると思います。
以下は参考までにお読みいただけましたら幸いです。

1.自社の労働生産性を知る + 工数管理アプリとは?
2.世間相場に見合った賃金を支払っているか?
3.賃金のみならず、人件費の総額を見極める
4.諸手当を見直し、賃上げの原資を捻出する

前編(1. 2.)はこちら<<

3. 賃金のみならず人件費の総額を見極める

御社が賃上げを決定するときには、労働生産性の高さを担保しつつ、賃金に加えて法定社会保険料を含む人件費の総額を見極める必要があります。

基本給以外の諸手当・賞与に対しても課せられる社会保険料は、従業員が加入する厚生年金保険、健康保険、介護保険(40歳から64歳の従業員)、雇用保険や労災保険にかかる保険料のことです。

厚生年金保険、健康保険、介護保険の場合、従業員と会社で保険料を半分ずつ負担するため、保険料率と給与手当(標準報酬月額)と賞与(標準賞与額)から保険料を算出すると、負担額が分かります。

●厚生年金保険料  給与手当の保険料額:標準報酬月額 × 18.3%
 賞与の保険料額:  標準賞与額  × 18.3%

●健康保険料(協会けんぽ・東京)  給与手当の保険料額:標準報酬月額 × 9.81%
 賞与の保険料額:  標準賞与額  × 9.81%

●健康保険料(協会けんぽ・東京)+介護保険料 40歳から64歳
 給与手当の保険料額:標準報酬月額 × 11.45%
 賞与の保険料額:  標準賞与額  × 11.45%

●子ども・子育て拠出金 ただし、事業主のみ負担
 給与手当の保険料額:標準報酬月額 × 0.36%
 賞与の保険料額:  標準賞与額  × 0.36%

標準報酬月額とは、被保険者が事業主から受け取る毎月の給料などの報酬を、一定の幅を持つ等級(厚生年金保険の場合、1等級から32等級)で区分したもので、対象として基本給、役職手当、家族手当、住宅手当、通勤手当、時間外手当などが含まれます。

なお、厚生年金保険の料率は、全国共通で2017年9月以降固定されていますが、健康保険の料率は毎年3月、都道府県ごとに改定されています。

日本年金機構
保険料額表(令和4年9月)
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/ryogaku/ryogakuhyo/20200825.files/01.pdf

全国健康保険協会(協会けんぽ) 令和4年3月分からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表:東京都 https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/shared/hokenryouritu/r4/ippan/r40213tokyo.pdf

社会保険料の算定に使用される標準報酬月額は、毎年4月から6月にかけての3か月に支払った報酬月額に応じて見直され、その年の9月から翌年の8月まで適用されます。

ただし、昇給の場合には年度の途中で変更されます。人件費の側面で見れば、例えば4月から昇給を行うことで標準報酬月額の閾値を超えて等級区分が変わるとき、その年の7月からは社会保険料の負担が増えることになります。

https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hoshu/20150515-02.html

雇用保険と労災保険の給付は、両保険制度で別々に行われていますが、保険料の納付などについては、労災保険料率と雇用保険料率を合算した一体的な労働保険料として取り扱われています。労働保険料は、1年間に労働者に支払う賃金総額に対して、令和4年10月以降、一般の事業で労働者負担が5/1,000、事業主負担が8.5/1,000となっています。

https://www.mhlw.go.jp/content/000921550.pdf

4. 諸手当を見直して賃上げの原資を捻出する

御社で基本給以外に役職手当、家族手当、住宅手当、精勤(皆勤)手当などを支給している場合、旧態依然のまま放置されている手当がありませんか? この機会をとらえて、合理性を欠く部分を見直し、手当の改定や廃止によって賃上げの原資を捻出できるかもしれません。

・役職手当
明確な基準がなく年功的な要素で決定されたままの支給額がバラついているのであれば、部下を持つラインの役職とオフラインの役職に区分し、責任の大きさによって傾斜をつけるほうが合理的と云えます。

・家族手当・住宅手当
昨今の共働きを前提とした家計の変化にも対応し、家族手当を扶養する子どもを対象とした教育補助手当へ移行することや、住宅手当については一定の支給期限を設定する、あるいは経過措置を通じて段階的に廃止する動きが主流です。

・精勤(皆勤)手当
本来は、ギリギリの人数で仕事をこなすため、休まずに働いて欲しいという奨励目的の手当でした。しかし、従業員からは本来の目的を理解されず、いまどき有休を取得しづらい職場という感覚で受け止められることもあります。

・現場出張手当
現場への出張業務が多い場合に、出張先や移動途中の飲食代、業務連絡用の携帯電話料金などを対象として様々な手当を支給していることがありますが、実費精算あるいは出張日当(経費扱い)に転換することができます。

・通勤手当
実費相当の支給を原則とし、電車・バス、自家用車、自転車・原付バイクなどの交通手段と距離を詳しく確認のうえ、従来の支給額を見直すことや、出勤日数によっては通勤定期よりも交通系ICカードの利用で削減できる場合があります。

合理的でメリハリのある諸手当の見直しについて、ぜひRIMONOにご相談ください。
☆賃金規程の作成・改訂を行う場合は、有償のためお見積りさせていただきます。

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