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働き方のバランスケア (2)

働き方のバランスケア (2)

2018年から法改正が順次施行されてきた働き方改革では、とくに時間外労働の上限規制によるインパクトが大きく、事業展開の枠組み、組織体制や業務運営を是正することが求められています。
上限規制の適用猶予となっていた建設業、運送業や病院等の医師についても、この4月から対象となりました。

これまでRIMONO Letterでは、働き方改革をメインテーマとして、数年に及ぶコロナ禍を経て顕著になった人手不足の課題にどのように向き合うべきかを、様々な観点からお伝えしてきました。
例えば、従来の慣行に拘らずやらなくても良いことを決める、個人単位で抱える仕事をタスクに落とし込む、デジタル・ツールの導入により生産性の向上を図るなどの具体的な取り組みです。

RIMONO Letter「働き方のバランスケア」 2023.07.10

時間外労働の上限規制に対応するためには、商品・サービスの付加価値を高めつつも、短納期での販売提供を見直すことなどが基本です。
しかし職場全体の意識においても、毎日忙しくて残業はやむを得ない、皆が協力して残業しているのだからこのままでいい、などと従業員が思い込んでいる場合があります。

そのような思い込みによって、残業申請の手続きを守らずに無断で残業する、意図的にタイムカードの打刻後に残業する(サービス残業)、自分なりに納得が行くまで仕事を抱えて残業する、就業時間内の業務に集中せず敢えて残業手当を稼ぐ(生活残業)、職場に居場所が欲しいがゆえに残業する、などの態様が起こり得るものです。

会社は、従業員の規律を取り戻して意識付けを図らなければならないのですが、闇雲な時間外労働の制限によってやる気を削いでしまうことや、時間単位の負荷を高めた分だけストレスを与えてしまうことは、どうにか避けなければなりません。

以下では、働き方改革と人手不足の狭間で、長時間労働や過重労働を発生させないための仕組みについてお伝えさせていただきます。

【お伝えしたい内容】

1. 時間と成果の関係

時間外労働は、使用者側の命令にもとづいて行われます。
そのため、職場単位の労働時間管理に関する権限と責任を付与されている管理職に対しては、部下の従業員が残業内容と所要時間を申請し、管理職の事前許可を得たうえで時間外労働を行うというルールを徹底します。

他方で、管理職は残業の許可をするにあたり、申請内容の重要性・緊急性・見込み時間を判断する際、部下の業務量や処理能力、その背後にある意識についても考慮することになります。
また、当日間際になっての残業申請に対しても適切な判断を下せるよう、部下との日常的な業務調整を重ねているはずです。

このような前提を踏まえて、管理職は直近で予想される納期遵守や品質維持に対して適切な員数を確保できているかを見極めつつ、労働時間の長さではなく仕事の成果で評価するという基本的な考え方を部下と共有していることが大切です。

とくに部下がこの仕事は自分にしかできない、自分で納得が行くまで時間をかけたいという気持ちを抱えているときには、その無理・無駄を切り捨てさせなければなりません。
以前にお伝えした「タスクに落とし込む」ということは、目の前にある仕事をいつまでに、どのくらいの工数をかけて、顧客先に約束した成果をどう出すか、それと同時に他の仕事との優先順位を調整させることです。

管理職は、日常的に個人単位あるいは職場単位で時間と成果の関係においてバランスが崩れていないか確認し、必要があれば社内他部門との連携協力を図り、あるいは単純業務を切り出し外部への業務委託に振り替えます。
そして、経営層はこうした取組みを継続させることで、長時間労働や過重労働を抑制するという仕組みを定着させなければなりません。

2. 棚卸し会議

以上の仕組みを定着させることで、時間と成果の関係についてある程度のメリハリを付けられるはずです。
しかし、さらに週や月のサイクルで経営層が出席する会議を開催し、管理職が進行役となって部下に担当業務の状況を報告させ、進捗や課題を共有し、その見通しについて議論をすることも必要です。

このような会議体は「業務調整会議」、「棚卸し会議」と呼ばれます。
具体的な議題は、時間と成果の関係での高い密度を求め、部下が目標達成に向けた施策を提案すること、管理職が残業を含む就業時間の集計結果を報告すること、それに対して経営層がより視野の広い知見を踏まえて業務遂行の方向性を示唆することなどです。

席上の議論が一段落したタイミングで、具体的に誰が・何を・いつまでに・どのようにするのかを確認します。
管理職の立場であれば、部下が積極的に成果をあげたいという意欲を持ったとき残業を躊躇させることはありませんが、反対に、曖昧なまま長時間労働になりやすい部下に対しては意識改革を促すように指導します。

経営層の立場であれば、企画部門が市場動向や競合関係を調査し商品・サービスを企画開発する、営業部門が売上・利益を獲得する、管理部門が事務処理で組織を支える、などの業務全体を俯瞰できているはずです。
時間と成果の関係でバランスが崩れている場合は、組織を横断して機動的に員数を割り当てるなどの対策を実施します。

経営層や管理職が現場の意思決定に立ち会い、堅実で重層的な判断を下すことによって、時間と成果の関係にメリハリを付けるように工夫します。
「棚卸し会議」の積み重ねで働き方の適切な在り方が見えてくれば、自ずと時間労働や過重労働が抑制されていくと考えられます。

3. デジタル・リスキリング

さらに、以前ご案内したように、デジタル・ツールの導入によって業務の効率性を向上させれば、長時間労働や過重労働の抑制につながります。

個人の知識や能力のバラつきにより抵抗感を示す従業員もいるかと思いますが、働き方の無理・無駄を削ぎ落すためにはデジタル化が必須であるという納得を促すことが大切です。

タイムカードに代わる勤怠管理システム、資料文書のペーパーレス化(電子ファイル化)、電子掲示板による日程共有、電話やメールの返信を待つ必要のないビジネスチャット、店舗のキャッシュレス決済端末、製造や物流現場のハンディターミナルなど、すでに多くのデジタル・ツールが利用されるようになっています。

数年前から注目されている「リスキリング(学び直し)」ですが、もともとはデジタル化に伴って産業構造が変化し失業者が増加するときに、彼らの受入れについて企業に取り組みを求めるという考え方です。

デジタル化によって大きく変わる仕事や新しく生まれる仕事に対応できるよう、仕事で使うデジタル技術に関する知識や能力を、従業員に習得させなければなりません。AIの活用が本格化すれば「リスキリング」は待ったなしになることが予想されます。

そのためには、従来のようにOJT形式で実務を教え込むだけではなく、デジタル技術を幅広く学ぶことができる外部のeラーニングコンテンツやセミナーなどを活用する方法があります。

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)ポータルサイト「マナビDX」
https://manabi-dx.ipa.go.jp/

デジタル化を加速させれば、各々の立場や役割でデジタル化を基本として仕事をする流れが生まれます。
その結果、時間と成果の関係にメリハリのある働き方を目指そうとする効果が期待でき、競合関係において優位な立場を獲得することができるのではないでしょうか。

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