新着情報

諸手当の弾力性(2)

諸手当の弾力性(2)

経済の潮目が変わりました。直近の数年間で物価上昇と賃上げが続いており、この流れは当面収まらないと予測されています。そこで本号では、基本給とあわせて毎月支給される役職手当、家族手当、住宅手当などの諸手当について、会社が任意で支給するものであるからこそ、その合理性を改めて見直し、制度の弾力性を維持していくための視点をご案内します。

RIMONO Letter「賃上げと諸手当の弾力性」2024.03.11
https://rimono.co.jp/2024/03/11/rimono_letter202403/

従来の諸手当は、職務貢献の対価である役職手当や営業手当、生計維持に配慮した家族手当や住宅手当などが一般的です。こうした諸手当と基本給の組み合わせによって、思うとおり全ての従業員が納得できる待遇となるのか。所定内賃金に占める平均的な構成比は基本給85%、諸手当15%と見られていますが、基本給の割合を高めるほうが公正・公平であるという考え方もあります。

基本給については、従業員の評価が優れていれば昇格・昇給が行われ、評価が基準に達しない場合には挽回の機会を設けつつ、降格・降給が行われるという弾力性を持った仕組みとなっています。しかしながら、諸手当については、就業規則に定められた要件に基づいて長期継続して支給されることで、いつの間にか既得権化してしまう側面があります。

会社規模の大小や成長プロセスに応じて、従来からの諸手当に加え、休日や深夜の変則的なシフト勤務、複数拠点の管理統括、重要顧客先での常駐勤務、遠隔地への長期出張の繰り返し、特殊かつ危険な環境での作業など、さまざまな職務に対応した手当を導入する必要が生じる場合もあります。

諸手当の種類はできる限り増やさないことが望ましいと言えますが、新たな手当を導入せざるを得ない場合であっても将来的な配置転換によって支給対象から外れること、支給期間に一定の区切りを設けること、更新要件を明確に定めることなどを通じて、既得権が曖昧な形で手当に引き継がれないようにすることが重要です。

【お伝えしたい内容】

1. 役職手当

役職手当とは、管理職層が事業運営を担うために一定の組織を統括することへの職務貢献の対価として支給される手当であり、部長職から課長職、係長職へと統括する組織の規模や責任の大きさに応じて支給額に差が設けられています。また、役職者の立場にある者が社内外の体裁を保つために必要となる購買、移動、会議等の経費を補助する手当としての側面もあります。

多様な価値観を持つ人材と、その働き方から成果を引き出さなければならない現在の雇用関係において、管理職層の職務は複雑化しています。とりわけ課長職は、上席にあたる部長職と比較しても日常的な部下の指導・育成を担う場面が多く、職務の遂行度や貢献度を踏まえれば課長職に対する役職手当を手厚くすることも合理的であると考えられます。

東京都の中小企業における役付手当(月額)令和3年から令和7年 ❶
令和3年 令和4年 令和5年 令和6年 令和7年
部長 86,687円 87,470円 83,916円 88,678円 81,051円
課長 55,612円 60,098円 57,621円 56,507円 58,904円
係長 25,601円 25,597円 26,576円 30,597円 30,151円

役職定年とは、一般的に50代前半に達した管理職が役職から外れて後進に道を譲る制度として知られています。役職定年によって、組織の新陳代謝が図られるとともに役職手当の支給も終了することが想定されますが、中小企業では基幹人材の不足もあり、高年齢の管理職にも長期間の活躍を求めざるを得ず、この制度を導入している企業の割合が高いとは言えません。

役職定年後の職務内容については、責任・権限・役割を明確にしておく必要があります。また、配置転換によって役職手当の支給を終了した場合、給与総額の減少が急激になりすぎると本人のモチベーションや生活設計に影響を及ぼす可能性があるため、調整手当の支給や賞与査定の見直しによって、給与の減額を段階的に進めていくという場合もあります。

東京商工リサーチ TSRデータインサイト『2025年「早期・希望退職」「役職定年」に関するアンケート調査』2025/07/09
https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1201568_1527.html

役職手当以外にも、基本給に上乗せする形で継続的に支給される職務(職能)手当・技能(技術)手当・資格手当などがあります。これらは、担当職務の相対的な価値が変化した場合であっても、支給額の引き下げや支給が容易ではないという性質を持っています。そのため、有資格者の配置が不可欠な場合を除き、職務手当等の導入については慎重に検討する必要があります。

2. 家族手当・住宅手当

5年前に策定された同一労働・同一賃金ガイドライン(非正規雇用における不合理な待遇差の解消を目的とする指針)に基づき、非正規雇用者に家族手当や住宅手当が支給されない点について見直しの議論が進められています。また別の視点では、配偶者を対象とする家族手当がパートタイムで働く配偶者の就業調整を促す要因の一つとなっていることも指摘されています。

一方で、子どもを対象とした公的給付は拡充が進んでいます。2024年10月には、児童手当制度の大幅な見直しが行われ、高校生年代まで支給期間が延長されたほか、第3子以降の支給額が月額30,000円へと増額されました。また、教育費負担の軽減策として、2026年4月からは公立高校に加えて私立高校に対する就学支援金の上限額が年額457,200円に引き上げられ、高校授業料の実質無償化が実現しています。

児童手当制度の概要
対象年齢 第1子・第2子 第3子以降
0歳〜3歳未満 月額 5,000円 月額 30,000円
3歳〜小学生修了前 月額 10,000円 月額 30,000円
中学生・高校生年代 月額 10,000円 月額 30,000円

こども家庭庁「児童手当制度の概要」
https://www.cfa.go.jp/policies/kokoseido/jidouteate/gaiyou

さらに、2026年4月からはこども未来戦略・加速化プランに基づく「子ども・子育て支援金制度」も導入されました。こうした少子高齢化対策を目的とした公的給付の拡充や家計環境の変化を背景に、家族手当については共働き配偶者を対象とする部分を廃止・縮小し、扶養する子どもを対象とした手当を拡充する方向へ見直しを進める企業が増えています。

東京都の中小企業における家族手当(月額)❷
一律支給 配偶者 第一子 第二子 第三子
12,385円 11,033円 5,928円 5,574円 5,574円

家族手当の見直しによって生じた賃金原資の余地については、賃貸住宅の家賃上昇や持ち家にかかる費用負担の軽減を目的として、住宅手当の引き上げに充てるという考え方もあります。住宅手当は、従業員が住居を確保し安定した生活環境で仕事に集中できるよう支給するものですが、同様に目的を達成する方法として、非課税扱いとなる社宅や社員寮を提供し給与から一定額の家賃負担を控除する運用も考えられます。

東京都の中小企業における住宅手当(月額)❸
扶養家族あり 扶養家族なし
一律支給 18,822円 17,363円
住宅の形態別支給 賃貸 28,612円
持家 18,170円
賃貸 21,491円
持家 15,081円

❶❷❸ データ:東京都産業労働局「中小企業の賃金事情(令和7年版)」令和7年12月23日
https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/toukei/koyou/chingin/r7

ただし、住宅手当の弾力性を維持するためには、以前もお伝えしたとおり、支給期間に一定の上限を設けること(例えば、通算10年以内など)や賃貸住宅の家賃動向について定期的に情報収集を行い居住地域ごとに支給水準を区分することで、その水準が十分なものとなっているかを確認することが基本です。

新規採用にあたっては、遠隔地に居住する人材に対して事業所の近隣への転居を条件に住宅手当を支給することや、在宅勤務を希望する従業員に対して住宅手当の代替として在宅勤務手当を支給する方法も考えられます。こうした制度により、遠距離通勤による心身の負担を軽減し、メリハリのある支援を行うことも可能ではないでしょうか。

ニッセイ基礎研究所レポート「通勤時間とメンタルヘルス-通勤時間が長い層ほどストレスが大きい傾向-」2026年03月16日
https://www.nliresearch.co.jp/report/detail/id=84897?site=nli

3. 諸手当の変更

特定の手当について、その合理性を欠く部分を見直すことで廃止・縮小を行う場合、労働契約法第10条(就業規則による労働契約の内容の変更)に基づき、就業規則の改定による労働条件の変更が認められることがあります。一方で、不利益変更の程度に応じて激変緩和措置を講じることは、変更の合理性、必要性あるいは相当性(バランスが保たれていること)を判断する上で重要な要素となります。

端的に言えば、一定期間をかけて段階的に手当を減額・廃止すること、既存の支給対象者については従来通り奇襲を継続すること、手当の廃止にあわせて新たな手当を導入すること、期間限定で調整手当を支給すること、あるいは賞与を増額することなどが考えられます。

手当の見直しによる不利益が小さい場合には、必ずしも個別の救済措置が必要となる訳ではありません。生計維持に配慮した家族手当や住宅手当などについては、廃止に伴う相当額を基本給に組み入れる方法も考えられますが、従業員の能力や成績に応じた会社への貢献度を反映して構築された基本給体系との生合成が損なわれる可能性があります。

諸手当の変更にあたっては、以下の厚生労働省の実務資料が参考になります。配偶者手当(配偶者を対象とする家族手当)の見直し手続きを示した資料ですが、家族手当に限らず諸手当全般の見直しにも応用できる内容となっており、一読をおすすめします。

厚生労働省『「配偶者手当」の在り方の検討に向けて』(実務資料編令和7年4月改訂版)
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001496667.pdf

《食事手当》
物価上昇による家計負担を軽減する施策としては、会社の費用の一部を負担する社員食堂や仕出し弁当、社内自販機の設置に加え、社外の一般店舗で利用できる食事券(ICカード)の配付も検討に値します。現物支給による食事補助については、所得税の非課税限度額が本年4月から月7,500円(例えば昼食20日分で1日あたり375円)に引き上げられており、その有用性が高まっています。

株式会社エデンレッドジャパン「食の福利厚生サービスならチケット・レストラン」
https://edenred.jp/ticketrestaurant/

to top